ホーム > 炎上を予防するには > クリスマス、おせち、福袋・・・。今年も繰り返される年末年始の風物詩に潜む炎上リスクとは?(デジタル・クライシス白書-2023年1月度-)【第100回ウェビナーレポート】

クリスマス、おせち、福袋・・・。今年も繰り返される年末年始の風物詩に潜む炎上リスクとは?(デジタル・クライシス白書-2023年1月度-)【第100回ウェビナーレポート】

公開日:2023.02.01 最終更新日:2023.06.21

パネリスト

桑江 令(くわえ りょう)

シエンプレ株式会社 主任コンサルタント 兼 シエンプレ デジタル・クライシス総合研究所 主席研究員。 デジタルクライシス対策の専門家として、NHKのテレビ番組に出演したり、出版社でのコラム、日経新聞やプレジデントへのコメント寄稿も担当。一般社団法人テレコムサービス協会 サービス倫理委員も務める。

パネリスト

前薗 利大(まえぞの としひろ)

シエンプレ デジタル・クライシス総合研究所 研究員。2011年、シエンプレ株式会社に入社。デジタル・クライシス対策の専門家として、日本を代表する大企業の炎上事案の沈静化・リスクマネジメントやブランディングなどの支援を多数担当。また、大手広告代理店との協業で、官公庁のプロジェクトなども担当。企業のWeb戦略策定や実施に携わった経験を活かし、セミナー講師や社内講師なども務める。

行動制限のない年末年始の“炎上”が続発

桑江:直近1カ月間の炎上事例について、まずは「クリスマス・正月」関連から紹介しましょう。

12月24日に大手ピザチェーンA社の複数店舗で受け渡しの大幅な遅延が発生し、公式Twitterには「予約したのに全然受け取れない」「店の前で寒空の下みんな待ちぼうけくらってる」といった批判的な声が多数寄せられました。

A社は24日午前0時に「当日の注文も間に合います…!」と投稿していたため、「一度現場を見てからTwitterを運営された方がよろしいかと思います」といった批判が殺到したのですが、実際に起こっている事象と予約投稿の内容が乖離しているとこのような状況に陥ることがあります。予約投稿をするのが果たして良いのかどうか、随時考えなければならないでしょう。

前薗:風物詩のイベントに関する予約投稿は、前日の段階で実際に投稿するかを決めるべきかと思います。新型コロナウイルス感染防止の行動制限がない年末年始を前にして、SNS上では「外食産業の人手が足りない」という投稿が散見されました。今回の事案も、注文状況などのリスクを考慮して判断した方が良かったといえます。

また、企業がトラブルを起こした際は、事後対応までしっかり確認するユーザーが少なくありません。「公式ホームページ上に謝罪文を掲載するのが当然」と考える人も一定数いるので、謝り方も改めて見直すべきだと思います。

桑江:中古の携帯端末などを取り扱うB社が運営する東京・秋葉原の店舗の初売りセールでは、殺到した客が転倒するトラブルが発生しました。

初売りセールは店員の合図で始まることになっていましたが、事前の説明では「並んだ順ではないので早めに並んだから買えるわけではありません」と案内されていました。

前薗:中古の携帯端末などは転売狙いを含めた顧客が押し寄せやすいジャンルということに加え、行動制限のない年末年始は久しぶりでした。

B社の店舗に限らず、福袋の販売を企画した小売店で、このようなトラブルを想定したリスクシナリオの準備がどこまでできていたか気になるところです。今年は初売り関連のトラブルが多く目につきました。

桑江:大手ステーキチェーンC社は、福袋に入れた割引券の使用条件が「ひどすぎる」として批判を浴びました。

福袋は税込み価格3000円で販売され、300円割引券が13枚入っていたのですが、割引券は福袋を購入した店舗でしか使えず、ステーキやハンバーグなど主食品1食につき1枚しか利用できません。さらに、割引券を使えるのは3月末までのわずか3カ月間です。

SNS上では「最低でも週1回通わなければならない」「3カ月間で13回は無理」といった投稿が相次ぎ、C社は1食当たりの使用枚数の制限を撤廃し、使用期限も6月末まで延長しています。

前薗:SNS上の声を受けてすぐに変更できたのか、何度かの炎上を経て対処せざるを得なくなったのかで変わってくるでしょうが、トラブル発生時の情報発信や対応のフローは気を付けるべき点があったと思います。

「アカウントを乗っ取られた」という言い訳は通用しない

桑江:奈良市内の医療機関が、ナースコールが鳴っても患者の元に行かなかったという職員のInstagram投稿について公式サイトで謝罪しました。

ただし、この医療機関は投稿について「何者かによりパスワードとIDが乗っ取られ、他人の写真を追加するなど加工された」と主張し、投稿について「事実とは異なった内容」と説明。これに反応した暴露系ユーチューバーD氏が「もみ消し」と批判しました。

「乗っ取られた」というような説明をすると「本当だろうか」と調べる人もいますし、内情を知っている人が真実をリークすることも珍しくありません。下手な言い訳をすると、余計に事態が悪化してしまいます。

前薗:謝罪対応としては非常にまずい内容でした。今回の事案はバイトテロを彷彿とさせますが、投稿者のような人物には継続的な教育で高いモラル意識を持たせるようにしないと、承認欲求を満たそうとする行動がエスカレートしてしまうことがあります。

高速化する「バイトテロ」炎上 たった半日で経営危機に!?

「実年者(50~60代)は、今どきの若い者などということを絶対に言うな」 これは、旧日本海軍の連合艦隊司令官を務めた山本...

i-siten.com

繰り返されるバイトテロ 従業員に伝えるべき「悲惨な末路」

もしも、日本国内における「デジタル・クライシス史」なるものが存在するなら、2021年6月の事象はその中の1ページに刻まれ...

i-siten.com

高級焼肉店をも襲った「バイトテロ」もはや防ぐことはできないのか?

社会問題化して久しいにも関わらず、一向に撲滅されないバイトテロ。アルバイト従業員などを雇用する企業・店舗にとって悩ましい...

i-siten.com

また、他の炎上事例を見ても「アカウントを乗っ取られた」という言い訳がまかり通ったケースはほとんどありません。「改めて教育・研修を徹底します」「当該職員にはこのような厳しい処分を下します」という踏み込み方ができていない場合は「対応が不十分」との指摘を受けやすいでしょう。

「ペット」「子ども」は炎上リスクが高い

桑江:続いては「商品・サービス」関連です。

シェルターの保護猫を飼育できる月額380円の会員制サービスに対し、SNS上で「命をおもちゃにするのは本気でやめて」といった批判が殺到しました。

会員登録にあたり、審査やトライアルは不要としたことも物議を醸し、開始から2週間足らずでサービスの終了が発表されました。

前薗:ビジョンや理念が先行し、指摘や批判を受ける可能性を全く考慮していなかった典型例かと思います。

「ペット」「子ども」は炎上リスクが非常に高いジャンルなので、拒否層の声を十分に考慮したサービス設計をしなければなりません。

桑江:2%のアルコール分が入った製菓大手E社のソフトキャンディーもSNSで賛否両論を呼んでいます。

アルコール使用はパッケージに表示されていますが、菓子の陳列棚で販売していることから「お酒入りのお菓子は別の場所で売ってほしい」といった投稿が相次ぎました。

前薗:広義で言えば、菓子も「子ども」に関連するジャンルです。発売時のメディアコミュニケーションの段階で注意喚起を強調するようにしなければ、その後の販売などにも影響してしまいます。

アルバイトの不祥事でも企業の責任は軽くならない

桑江:続いては「暴力・暴行」関連です。

大手カラオケチェーンF社はアルバイト従業員が路上で男性に暴力を振るう動画がSNS上で拡散されているのを受け、従業員の暴行の事実を認めて謝罪しました。

すぐに謝罪したことはスピード対応として評価されましたが、一部では謝罪文のタイトルを含めて「アルバイトスタッフ」と強調したことに「違和感を覚える」との声も寄せられました。

前薗:企業側が対応に入ったという見え方になったことで、その後の収束も早かったと思います。

ただ、特に事件・事故や法令違反に関する事案について「アルバイトスタッフ」「フランチャイズ加盟店」、あるいは「業務時間外」など、どこかで企業の責任を軽減しようとしていると捉えられると批判的な指摘を受けてしまいます。

「正社員は暴力を振るってはいけないが、アルバイトなら許される」という論理が成り立たないように、行為の良し悪しと雇用形態は全く無関係です。謝罪時における当事者の扱いには、十分気を付けるべきでしょう。SNSユーザーはそこまで見ています。

インフルエンサーが関与する炎上パターンが増加

桑江:年末年始の炎上事例では、Twitterなどにおける投稿者本人の不適切な言動が原因になったケースは少なかったのが印象的でした。インフルエンサーが他人の不適切な言動を指摘した、あるいは第三者の不平・不満などを取り上げて問題提起した結果、反響を呼んで拡散されるパターンが増えています。

メディア側もインフルエンサーが拡散した事案について、「批判が殺到」といった論調で記事化することが珍しくなくなりました。現実社会での言動が問題視されて大きな騒動に発展しており、もはや誰もが批判の的になり得るという状況です。

前薗:自分では調査する力がない人たちも「不快だ」「不適切だ」と感じた瞬間にインフルエンサーに情報提供しており、それを受けたインフルエンサーが動くという流れが出来上がっています。

週刊誌の記者に教えてもらったのですが、そうした情報のストックは発信者側には常にあり、いろいろな証拠が集まって形になったときに爆弾として投下されるとのことです。

企業の広報・マーケティングを担当されている皆さんも、そのようなメカニズムをきちんと押さえておかなければならないと思います。

最新記事の更新情報や、リスクマネジメントに役立つ
各種情報が定期的にほしい方はこちら

記事一覧へもどる

おすすめの記事