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レポート:【第21回ウェビナー】企業として知っておくべき『ジェンダー論』~ジェンダー炎上を防ぐために~

公開日:2020.10.14 最終更新日:2023.06.20

パネリスト

桑江 令(くわえ りょう)

シエンプレ株式会社 主任コンサルタント 兼 シエンプレ デジタル・クライシス総合研究所 主席研究員。 デジタルクライシス対策の専門家として、NHKのテレビ番組に出演したり、出版社でのコラム、日経新聞やプレジデントへのコメント寄稿も担当。一般社団法人テレコムサービス協会 サービス倫理委員も務める。

先進国で最下位、日本のジェンダー格差

本日のテーマは「企業として知っておくべき『ジェンダー論』~ジェンダー炎上を防ぐために~」ということでお送りしたいと思います。

ジェンダーとは「社会的に決められた性差」。社会が決めた「男らしさ」「女らしさ」。そして、性別に基づく勝手な決めつけを「ジェンダー・バイアス」と言います。令和の時代はジェンダー平等(ジェンダーフリー)を求める人が増えており、世界中でジェンダーに基づく「らしさの決めつけ」「格差」を解消しようという動きが広がっています。

こうした時代背景の中、日本においてもCMや広告で描かれた男性像や女性像が批判され、企業のブランドイメージが傷つく事象がしばしば起きています。これが「ジェンダー炎上」です。

ちなみに、日本のジェンダー格差は世界121位で、先進国で最下位であるという調査結果が出ています。その理由は、経済と政治に女性リーダーが少な過ぎる点が挙げられます。もちろん、教育の普及率などは性差がないのですが、経済と政治のリーダーが少ない点が大きくスコアを落としている要因です。ヨーロッパなどでは半強制的に政治の世界に女性が参加できる仕組みをつくっていますが、日本でそういった動きはありません。

そして、日本のジェンダー格差が広がっている最も大きい理由は、多くの人が「男女格差が大きい」という実態を実感せずに暮らしているということです。「他の国に比べると日本は豊かだし安全だから、今のままでいいのではないか」と考える人が多いのが、男女の格差が縮まらない要因の1つだろうということです。

実際に、どのような意見があるのでしょうか。例えば「女性の政治家や管理職が少ないのは、女性自身が望んでいないからでは」「働きたい女性ばかりじゃない。結婚して子どもを産んで、主婦になりたい女性もたくさんいるのでは」「女性がそれを望んだ結果のギャップなら無理に変える必要はないのでは」「日本には独自の文化があるから海外とは違う」といった見方や主張が人それぞれにあります。

これらが正しいか間違っているかという議論とは別に、ジェンダー格差が決して他人事ではないということを意識しなければなりません。

企業メッセージは「上から目線」とみなされない工夫を

ジェンダーと言うと「一部の女性が気にしているんだろう」と思う人もいるかもしれませんが、もちろん男性にも当てはまる問題です。男らしさや女らしさは人それぞれに考え方が異なるので、「男とはこうである」「女とはこうである」という表現をCMやクリエイティブで取り入れてしまうと違和感を覚える人が多く、炎上してしまうリスクがあります。これが今回のテーマである「ジェンダー炎上」ということです。

なぜジェンダー炎上が起こるのかと言えば、そもそも多くの人が「無意識のジェンダー・バイアス」を持っているから。しかし、ジェンダー・バイアスが広告などで表立って表現されると炎上しやくなります。昨今はジェンダーの問題に「気づく人」が増え、SNSなどで「意思表明する手段」が増えてきたことで、広告の「ジェンダー炎上」が起きています。

これまでの炎上要素を分類すると①働く女性への侮辱、②女性客全般を見下す表現、③性的イメージの露骨な表出、④家事育児を女性の役割と決めつける、⑤性別に基づく勝手な思い込みや決めつけ。コロナ禍において意見の「分断」が顕著になっている昨今を踏まえると、企業からのメッセージは「上から目線」とみなされるリスクが高まっていると思いますので、気をつけなければいけない部分かなと思います。

しっかりした企業であっても、①~⑤で見た通り、どうしても隙間に気づかず、もしくは無意識にそういった形の表現を使ってしまい、批判されてしまった例があります。

多様な受け手の存在を意識した表現を

では、「ジェンダー炎上」を起こさないために、どうすればいいのか。重要な考え方は3つです。まず、広告は女性、高齢者、年少者、外国人など多様な受け手がいます。多様な人々が自然と目にしてしまうという特性上、こうした受け手をしっかりと意識し、万人に共感を得られるような表現を心掛ける必要があります。

2つ目は、多くの人が「無意識のジェンダー・バイアス」を持っているということ。ふとした拍子にそのバイアスが出てしまい、他人を批判するだけでなく、自分にもバイアスがあることを意識しなければならないということです。

そして3つ目、ジェンダー炎上が起きたときには「あれ、炎上したね」と他人事として片付けるのではなく、「自分はどう思うのか」「決めつけられている感じはするか」と考えたり、周囲の人と話し合ってみたりして、自分と違う意見に気づく機会を設けることが重要ということです。

このような意識を徹底することで、「ジェンダー炎上」を起こさずに「ジェンダー平等」をつくることを目指していけるのではないかと思います。

「ジェンダー炎上」の原因の1つは、社内のチームに女性がいない、もしくは少ないこと。日本企業には女性管理職が少ないという問題があります。企画会議で提出された案に女性から見て炎上リスクがあっても、女性が1人だけだと意見を言いにくいといった状況は珍しくありません。

かと言って、女性を担当にするというだけでは失敗します。女性社員が多く在籍する優良大手企業でも「ジェンダー炎上」が起きているということが、それを物語っています。つまりジェンダーへの考え方は人それぞれで、同じ性別や世代でも、成育環境や受けた教育、就労や家族の状況などによって考え方は異なります。男性と対等でありたいという「女性の男性化」も進んでおり、女性だからジェンダーに的確な判断ができるとは言い切れないのです。

重要なのは性別・年齢を超え、「違和感」を表明できる組織をつくるということ。さまざまな属性の人が自由に意見を言える組織をつくることが、企業の情報発信の質を上げるのです。炎上の事例や批判があった場合は、そのテーマを基にして、みんなでディスカッションをしてみるなど、「自分の見方は違うんだな」ということにしっかりと気付ける機会を社内でつくっていくのが重要になると思います。

第3者によるクリエイティブリスク診断も有効

第3者チェックという手段も有効でしょう。過去の「ジェンダー炎上」を見ると、消費者など外部から批判を受けるまで、社内では問題に気づかなかったケースがほとんどです。社内で多様な文化をつくることが炎上を防ぐ一番の正攻法ですが、短期間で風通しの良い組織づくりはなかなか実現できることではありません。職場のダイバーシティをすぐに実現することが難しい場合、企画のチェックに第3者の意見を取り入れるのも手です。

その上で、もう1つ重要なのがプロジェクトのKPIをはっきりとさせ、レビューを怠らないこと。どんな組織でも間違えることはあるので、間違えたときは隠すでも黙るでもなく、素直に受け入れることが大事。プロジェクトのレビューを徹底することで、同じ間違いを繰り返さないことが重要だと思います。

シエンプレでもクリエイティブリスク診断というサービスを行っています。どのような項目を見ているかと言うと、「使用している表現やテーマが世間に受け入れられるか」「企画内容に世間で批判されているような要素は入っていないか」「展開する媒体やメディアに問題はないか」。この3点をチェックしてフィードバックしています。

プロモーション活動に起用するタレントの過去のブログやSNSもくまなくチェックし、何らかの問題発言や問題行動がないかどうかを分析。その上で、われわれが随時登録している危険アカウントとタレントが紐づいていないかもチェックします。過去の発言までさかのぼって確認することで、炎上リスクは格段に下がると言えると思います。

繰り返しになりますが、ジェンダーは男性をめぐっても起こり得る問題です。「うちは女性商品を扱っていないから関係ない」というのではなく、どんな企業もジェンダーをきちんと理解することが必要です。そこはしっかりと意識をしていただければと思う次第です。

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