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レポート:【第23回ウェビナー】デジタル・クライシス白書-2020年10月度-

公開日:2020.10.28 最終更新日:2023.06.20

パネリスト

桑江 令(くわえ りょう)

シエンプレ株式会社 主任コンサルタント 兼 シエンプレ デジタル・クライシス総合研究所 主席研究員。 デジタルクライシス対策の専門家として、NHKのテレビ番組に出演したり、出版社でのコラム、日経新聞やプレジデントへのコメント寄稿も担当。一般社団法人テレコムサービス協会 サービス倫理委員も務める。

パネリスト

前薗 利大(まえぞの としひろ)

シエンプレ デジタル・クライシス総合研究所 研究員 2011年、シエンプレ株式会社に入社。 桑江の元で多くの案件に携わり現場を経験した後、 代理店担当としてアサツー・ディ・ケイなどとの協業で、 官公庁の他、日本を代表する大企業のリスク対応を多く担当している。

「コロナ対策をしているか」も炎上要因に

桑江:まずは、直近1カ月間の炎上事例を振り返りましょう。かなり大ごとにもなり、身につまされると思ったのは、南米のプロサッカーチームの選手16人が新型コロナウイルスに感染した中、移動の航空機内でマスクを着用していない選手たちの集合写真を撮影したSNS担当者がクラブに解雇されたという事例です。

前園:これは再現性の高い問題かと思います。

桑江:企業が自社のイベントを開くこともあると思うのですが、その場にいた人がマスクをしていないということが問題視され、かつ無自覚に写真をアップしたスタッフが解雇されてしまったというのは考えさせられます。例えスポーツチームでなくても、SNSでの露出や表現の仕方は気をつけなければいけないという気がしますね。

前園:SNSに上がった写真がいろいろな切り取られ方をされ、炎上してしまうことは過去に何度もありました。しかし、インシデントの要因の1つとしてマスク、コロナ対策をしっかりしているかというのが加わったということを、SNSや広報担当の方は強く認識しなければならないところかなと。例えば、密になった状態の写真を撮影し、公開するのであれば、「このときだけ集まりました」という要素を足すといった配慮が必要でしょう。

型や価値観を押しつけないことが大切

桑江:次に紹介するのは、主婦向け雑誌が現代の子どもの食事を「毒メシ」と表現して炎上した事例です。科学的根拠が明確ではないままキャッチーなワードをつけてしまう。このような炎上はよくあるのですが、それがまさに今回も起こってしまいました。より注目を集めたいというところでキャッチーな表現を使うことは珍しくありませんが、それがネガティブな表現になってしまうと、このように反応されてしまうと。

前園:SNSやWebメディアが興隆する中、キャッチーなフレーズをどうつくるかというのはSNS、広報を担当する方も非常に気にされているかと思います。他の人の価値観を否定するような表現は特に炎上しやすい傾向なので、フレーズが独り歩きしてしまう可能性を十分に加味して表現を抑える、あるいは文中や動画内で説明することなどが求められます。コンテンツをつくる際は、企業にとってマイナスになるおそれも吟味すべきと思いました。

桑江:そういった流れでは、「大阪のオバちゃん」を揶揄した政党ポスターも批判されました。「大阪のオバちゃん」イコール「トラ柄」とか「寝転がっている」といったステレオタイプ、決めつけで表現してしまっているのが炎上につながったのかなと。自虐ネタは自身によるものか、他者によるものかで、見る人の受け止め方は大分変わります。自虐というものをうまくやらないと炎上してしまうということは、今回も立証されました。

前園:型を押しつけるというのは、炎上の悪いパターンにはまってしまうことになります。また、この事例を深掘りすると、政党側はポスターを通して肝心の政策表現をしっかりやっていなかったのも問題。「何か受けそうだからキャッチフレーズだけ入れてみた」とも受け取れる姿勢への批判もありました。政策的な主義・主張もちゃんと入っていれば、少しは批判を抑えられたかもしれません。

桑江:「何か受けそうだから」という意味では、米国で起こった炎上事例が目を引きます。生後6カ月の赤ちゃんが水上スキーに乗っている動画が拡散されたのですが、投稿した両親に対して全米から「虐待だ」「無責任」といった批判が寄せられました。実は日本に置き換えても、TikTokで自分の子どもの短い動画をアップしている親が結構いるんですよね。それが行き過ぎると、このような形で非難されてしまう恐れが十分あると感じています。

前園:SNSでバズる、あるいは自己の承認欲求を満たす上で、投稿したコンテンツがいかに高い評価を得るかということが重要になっている側面もあって。そうした中で、他の人が挑戦していないことをやるというケースは数多くあります。プロモーションや広告もそうだと思いますが、「他社が手をつけていないのは、何かしらの理由があるからではないか」ということもしっかり考えることが重要だと思います。

センシティブなテーマには踏み込まないのがベター

桑江:続いて取り上げる炎上事例は国会議員、東京都内の区議によるLGBT関連の発言です。LGBTのように、世の中から注目されるコンテンツで問題発言をすれば、かなり炎上してしまうことになります。いったん発言した内容は何らかの手段で拡散される、もしくは保存されるので、どんなに否定したところで結局、言い訳にならざるを得ない。これは企業も同じことですので、注意しなければいけません。

前園:この区議の場合はLGBTの良し悪しというより、少子化問題についてしっかりと主張したかったがゆえの発言だったのですが、その引き合いにLGBTを出してしまいました。もちろん良くない発言だったと思いますが、特にジェンダーに関しては男女の行き過ぎた区別が差別につながるという考え方もあります。企業の対応も難しいかと思いますが、こうしたテーマにはあまり踏み込まないように気をつけるのがベターかと思いました。

桑江:企業の対応と言えば、著名なインフルエンサーにSNSで接客を批判された餃子店が、このインフルエンサーのファン、信奉者から相当な嫌がらせを受け、休業状態に追い込まれてしまった事例がありました。もちろん互いに言い分はあると思いますが、店側が冷静に事実だけを伝える発信をしていれば、ここまで問題が大きくならなかった可能性があると思います。企業がリスクを防ぐ上で、感情的になってもいいことはないという。

前園:これは非常に、いろいろな示唆に富んだ出来事だったと考えています。インフルエンサーの方々、特に本事例のインフルエンサーが当事者となった過去の炎上事例を思い返すと、彼自身が相手に対して折れたケースはほとんどないわけです。餃子店の関係者も、こういった有名人への対応はある程度、念頭に置いて準備していた方が良かったのかなと。あえて反省点を挙げるとすれば、そういった点かと思います。

桑江:例えば、芸能人とメーカーやブランド、会社などがトラブルになった場合、その芸能人のファンや信奉者まで相手を攻撃するというのは常識になってきてしまっています。攻撃の場所で一番多いのが、グーグルマップのコメント。そこにファンらが突撃し、星1つの低評価をつけて苦情を書き込むということが起きています。企業側にとっては非常に大きなリスクになるので、できるだけ穏便に済ませるための対応が求められている気はします。

コロナ禍では芸能人などによる政治的な発言も増えていると思うのですが、賛成と反対のそれぞれの立場からトラブルになることも多いですね。企業の場合も、どちらかの主張に転んでしまう発言をするのはリスクでしかないので、極力しないのが一番いいでしょう。

前園:影響力の大きい方々が、どういったテーマについて発信すると、どういう反応を受けてしまうのかというのは、もっとよくシナリオを考えた方がいいと。ただし、そうしたリスクを受け入れる、批判されてもいいからこれを言うというならOKだと思います。そうした理解もなく発信し、想定外の炎上にさらされてしまうというのが我々の考えるデジタル・クライシスに発展していくので、そこまで周到に考えて発信をしていくというのが今後の宣伝戦略上では重要になるでしょう。

桑江:覚悟を持ってポジショントークをするというのであれば、あるいは想定の範囲内の批判は会社として受け入れるというのであれば、「そういう戦略だ」ということになりますからね。そういうところも踏まえて考える必要があるのかなと思います。ただし、いわゆる「炎上商法」はブランドイメージを毀損するだけなので、しない方がいいと思います。

前園:企業が炎上した際に最も気を付けなければならない点は、事実なのかそうでないのか。何に対してユーザーが怒っているのかというのを見極めた上で、その原因が自社にあったというのは事実かという点を即座に検証し、発表できるかどうか。仮に事実でなかった場合に賞賛を得られるのは、しっかりとアカデミックな根拠を取得して、反論すべきは反論するという対応。ただし、居丈高なトーンにならないよう気をつけましょうというところです。

桑江:行き過ぎた批判やクレームに関しては、第三者も「これはクレーム側がおかしいよね」という見方をしてくれます。それとは別に、普段からいかに自社のファンをつくれるか、有事の際も味方になってくれるファンを、いかに集められるかが重要なポイントなのかなと思います。

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