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レポート:【第27回ウェビナー】徳力基彦氏が語る「“普通”の人のためのSNS活用術」~ビビらずしたたかにアウトプットを~

公開日:2020.11.25 最終更新日:2023.06.20

パネリスト

桑江 令(くわえ りょう)

シエンプレ株式会社 主任コンサルタント 兼 シエンプレ デジタル・クライシス総合研究所 主席研究員。 デジタルクライシス対策の専門家として、NHKのテレビ番組に出演したり、出版社でのコラム、日経新聞やプレジデントへのコメント寄稿も担当。一般社団法人テレコムサービス協会 サービス倫理委員も務める。

ゲストパネリスト

徳力 基彦(とくりき もとひこ)氏

note株式会社 noteプロデューサー/ブロガー。アジャイルメディア・ネットワーク株式会社 アンバサダー/ブロガー。NTTやIT系コンサルティングファーム等を経て、アジャイルメディア・ネットワーク設立時からブロガーの一人として運営に参画。代表取締役社長や取締役CMOを歴任し、現在はアンバサダープログラムのアンバサダーとして、ソーシャルメディアの企業活用についての啓発活動を担当。note株式会社では、noteプロデューサーとして、ビジネスパーソンや企業におけるブログやソーシャルメディアの活用についてのサポートを行っている。個人でも、日経MJやYahooニュース!個人のコラム連載等、幅広い活動を行っており、著書に「顧客視点の企業戦略」、「アルファブロガー」等がある。

「情報は貴重か?」という疑問

桑江:日本は海外に比べ、SNSやブログを実名で利用する人の割合が非常に少ないとされています。Twitterに至っては匿名での利用が7割を超えますが、SNSは仕事の役に立つので使わないのはもったいないでしょう。今回はSNSのリスクを正しく恐れ、活用していきましょうというテーマでお話しできればと思います。

徳力:SNSやブログには間違いなくリスクがあります。ただ、例えばブロガーは車を運転するドライバーに近いと思っています。事故を起こすリスクがある代わりにドライバーは車を運転でき、ブロガーは情報発信をできるということ。正しい使い方を覚えれば、企業の役にも立つというのが私のスタンスです。

桑江:きちんとルールを設けた上で、SNSの利用を従業員に積極的に推奨すること自体がリスクヘッジになりますし、企業にとってメリットがあるのではないでしょうか。

徳力:「情報は貴重か」と聞かれたら、誰もが「貴重だ」と答えると思います。しかし、本当にそうでしょうか。インターネットの普及で情報爆発が起こり、日本にあるニュースサイトの数は4000以上と言われています。YouTubeに1分間にアップされる動画は400時間以上(2017年)、1分間のツイート数は47万以上(2018年)で、すべてを見聞きしたり記憶したりするのはまず無理。そんな牧歌的な時代は、とうに終わっています。

桑江:なるほど。

徳力:情報収集しようとすると、どうしても脳に記憶したくなりがちですが、現代社会に溢れる情報量を処理するのは人間の能力をはるかに超えています。それにも関わらず、学校教育も企業の仕事の進め方も人間の記憶に頼った構造で、30年前と大きく変わっていません。個人的には「もはや情報は貴重ではないのではないか?」という疑問を持つところから始めていただきたいと思います。

桑江:発想の転換ですね。

徳力:過去の情報を検索、分析することも大事ですが、ビジネスの世界ではそれだけだと意味がないというのが僕の意見です。新型コロナウイルスが象徴的で、いくら過去の情報を検索、分析しても、こうすれば感染拡大を収束させられるという答えは出てきません。結局、未来の話は我々自身が必死に知恵を絞るしかないのです。そうした情報予測の力をつけるためにもアウトプットファーストであるべきではないかというスタンスで、アウトファーストを実践するためにSNSやブログを組み合わせてくださいということです。

まずは「メモを書く」ことから

桑江:具体的に、どうすればいいのでしょうか。

徳力:まずは、メモから始めましょうということです。とは言え、アウトプットとなると、どうしても情報発信、さらにはメディアという言葉と連動しがち。正しい情報を正しく発信しなければならないと気負い過ぎると手間がかかり、ハードルが高くなってしまいます。だから、SNSやブログはメモ感覚で始めてくださいとお願いしたいですね。

桑江:メモでいいわけですね。

徳力:学校の授業もそうですよね。先生の話をただ聞いているだけでは何も入ってきませんが、一生懸命ノートに書くことで記憶に残りやすくなります。アウトプットファーストの基本的な考え方も同じです。日々ニュースを読んで終わりにするのではなく、ニュースを読んで考えたことを書くことによって脳をしっかり動かすというイメージで、メモを書くことをお薦めしています。

桑江:五感を駆使するということですか。

徳力:ただし、メモを取っただけで終わってしまうともったいないですね。講演を聞くとき、僕は必ずメモをするのですが、あとで読み返そうとパソコンにテキストファイルを保存しても探し出せなくなってしまいます。ブログを書くようになってからは、そうしたメモを全部ブログに書いてしまうようになりました。

桑江:そういう使い方があるのですね。

徳力:講演のメモは自分のためですが、自分と同じような境遇の方の役にも立つし、自分が感動した話は他人を感動させる可能性があるということに気付きました。皆さんもメモを取られているのであれば、まずはそれをオープンにすることから始めてみてはいかがでしょうか。
毎日続けるのに向いているのはニュースのメモですね。メモは自分のためでしかありませんが、パソコンにしまい込んで二度と使わないくらいならSNSやブログに書けば、次のコミュニケーションにつながるかもしれません。SNSをおしゃべりから始めるのは難しいと思っている方はメモから始めていただくのがいいのではないかと思います。

桑江:ブログやSNSの本質はコミュニケーションですね。

徳力:Twitterで講演中のメモをツイートされている方がいらっしゃいますが、それでも十分だと思います。聞いていて面白いと感じた発言をツイートするだけでも誰かの役に立つことがあるんですよね。それがコミュニケーションにつながり得るということです。

桑江:なるほど。

「自分のために」という感覚で情報発信を

徳力:コミュニケーションというと、皆さんは「プッシュ」のコミュニケーションをイメージされると思います。分かりやすいのは電話やメール、郵便など一方的な働きかけでコミュニケーションが始まるもの。ネットが普及する以前、テレビやラジオ、新聞など「プル」のコミュニケーションは記者やアナウンサー、芸能人など一部の“特権階級”にしか許されていませんでした。
これと同じことを、マスメディアと同じ規模になる可能性があるレベルでやれるようになったのがソーシャルメディアです。今まではお金があってコマーシャルを打てる企業でなければ「プル」のコミュニケーションができませんでした。それが個人でも可能になったというのが大きなポイントです。

桑江:アウトプットの先が大きく広がったと。

徳力:ただ、日本においてSNSは「炎上を起こすものである」という見方が広がってネガティブな面ばかりが注目され、多くの企業でSNSが禁止になってしまいました。本来はメリットがあるので少なくとも正しい使い方を教育し、効果的に運用できる従業員には使わせて企業のエネルギーにするという選択肢があっていいと思います。
例えばFacebookでつながっている人同士は、コロナ禍の中でもコミュニケーションはむしろ増えているはずです。でもリアルなコミュニケーションは断絶されたので、「SNSは使わない」と言っていた人ほど困ったでしょう。だからこそ、このタイミングでコロナに“敗戦”したと思ってデジタルに切り替える必要があると思います。

桑江:確かに、Facebookが公表したデータでも1人当たりの月間平均滞在時間は明らかに長くなっています。

徳力:最初はSNS上でおしゃべりをする感覚でいいと思います。ネット上に文字を書いても簡単には炎上しないということを体験し、おしゃべりに入っていただければ。メモを書く感覚でコミュニケーションを取っているとメディア化することがある時代。ネットが普及する以前はマスメディアでなければ情報を発信できませんでしたが、今は誰もができるのですから。

桑江:ネットが普及する以前、企業は広報がマスメディアと折衝するか、マーケティング部、宣伝部がお金を払って広告枠をもらわなければ顧客に対するコミュニケーションができませんでしたからね。

徳力:日本のSNSは職業インフルエンサーが目立っているので、彼らのやり方が教科書になってしまうんですよね。「フォロワーを増やしてお金を稼ぎましょう」といったことが言われていますが、企業の方々は耳を傾けないでください。
彼らは個人だから自分の意見を自由に主張していますが、組織に所属する人は看板を背負っているので、そんなことはできません。SNSやブログでお金を稼ぐという文脈は忘れ、皆さん自身のキャリアアップ、レベルアップのためにアウトプットをすると思ってください。

桑江:そうすると、それが役に立つかもしれないという話ですね。

徳力:組織に紐づいている人は当然、業務で知り得た秘密もネガティブなことも絶対に書いてはいけませんが、そんなことは就業規則にも記されているはずです。SNSに投稿するのは渋谷のスクランブル交差点でスピーカーを持って話しているのと同じですから。

桑江:対外的なリスクにも注意を払わなければならないのは当然です。

徳力:だから、SNSやブログは「自分のために」という感覚で始めるといいでしょう。メモを書いたら友達に読まれるかもしれないし、誰かの役に立つかもしれない。メディアの目にも触れて大勢の人に読まれるかもしれないという話です。ついフォロワーの数を追いたくなりがちですが、ビジネスの世界でフォロワー数の多寡は必ずしも意味があることとは言えません。取引先の数人の方がフォローしてくれて感動してくれるなら、それで十分だと思います。
SNSやブログは自分のコピーロボットだと思っています。僕の思いを書いたものが、ネット上で読者とおしゃべりをしてくれるわけです。ビジネスの世界で社員全員がコピーロボットを持っていれば、すごく強力な武器になります。
海外のBtoB企業などは「ソーシャルメディアで情報発信をしてください」というガイドラインを定めているのが普通ですが、日本はバイトテロのようなトラブルが先行したので「使うな」ということが多い。そうすると、効果的に使える社員の利用も制限してしまうので、これを機会に皆さんの企業のポリシーや雰囲気を見直してもらえればと思っています。

炎上を恐れるより、炎上対応の失敗を恐れるべき

桑江:ありがとうございます。ここまでのお話を踏まえ、情報発信をして炎上などのトラブルがあった場合にどうするべきかという話もしたいと思います。

徳力:今まではアルバイトが職場で悪ふざけをしても誰の目にも触れませんでしたが、SNSにバイトテロの映像などが上がってしまうと大ダメージを受けることがあり得ます。それは裏表です。個人がメディア化することでポジティブなこともあれば、大炎上することもあります。

桑江:シンプルに言うと、自分たちが悪ければしっかり謝りましょうという話ですよね。

徳力:その場合は当然、謝るしかないですね。ただ、コミュニケーションなので、誤解されるケースもすごくあります。Twitter上には「ジェンダー警察」なる人もたくさん存在するので、そうした話題では周りに人が拠ってきて、そんなに炎上していなかったはずがメディアに取り上げられて本当に燃えるということが起こってしまいます。
別に悪いことはしていないけれど、右と左の考え方の人が集まってきて企業のプロモーションとしては炎上状態になるということが非常に増えていますね。そうなると、ある意味謝るのと同じですが、「そういうつもりではなかった」と説明するしかないというのがポイントですね。

桑江:その場合は、丁寧な対応に徹しなければならないと。

徳力:企業の担当者が発信をして炎上するケースが多いので、何となく「発信しない方がいい」という雰囲気になるかもしれませんが、全く発信していないというのも炎上しやすいんですよね。普段からコミュニケーションをしていると「あの人がこんなことを言うはずがない」というパターンになることもあるので。実はコミュニケーション量を増やす方が、炎上には強くなると思います。

桑江:炎上の背景には、個人の発言が見えるようになったこと、多くの炎上が「正義感」から始まること、メディアが炎上ネタを探していることの3つがあると思います。炎上を防ぐにはリアルではしない不適切な言動を避け、自分と異なる立場の人がいることも忘れないようにする。また、録音・録画されてメディアに流されても問題ないという前提で発信し、自分なりのフィルターを持って対立構造の話題に入らないというところですね。
炎上しそうになったら最初の対応を間違えないように初期消火に努め、説明する際は長文を書けるブログに場を移し、フィードバックに感謝することが重要です。

徳力:Twitterで炎上するとTwitterで反論する方が目立ちますが、Twitterは短文しか投稿できないので、Twitterに連投して謝罪をしても1カ所だけ切り取られると謝っていないように見えてしまうことが多いんですね。誤るときは特に、ブログなりプレスリリースなり長く書けるところに場所を移すというのが重要だと思います。

桑江:画像で長文を掲載する企業も多いですよね。

徳力:検索されたくないという理由だと思いますが、そういうことをすると本当は謝りたくないように見えてしまうので、逆効果かと思います。

桑江:不謹慎狩りや正論狩りなどで炎上させられそうになるケースは、どのようにコントロールすると良いでしょうか。

徳力:本当に難しい話だと思います。今は残念ながら、不謹慎な発言や失言を探して回っている人たちがいるんですよね。とにかく安易な発言はしないというのが基本だと思います。でも、ネットの普及以前から、ビジネスの世界では取引先と政治と宗教、野球の話はしない、どちらかのサイドに分かれてしまう話は避けるのが当たり前でした。
今の企業SNSは「中の人」が1人で話題をつくらなければいけないので、面白い内容で目立とうとします。ただ、「面白さ」は不謹慎と表裏一体です。会社を代表して1人で発信する行為自体の難易度が非常に高いのですが、政治系の話題やジェンダー問題など差別につながるテーマには触れるべきではないというイメージを持っています。

桑江:企業が組織ぐるみで企画を進めても問題になるケースがあると思います。現実の社会ではアウトだということに気付けなかった、あるいは社内の確認フローでは拾い切れなかったポイントへの対処は、どうすれば良いでしょうか。

徳力:炎上をうまく使っている企業も存在します。意見が分かれる話題には必ず批判が出るものです。企業はこれまで無色透明で、できるだけ意思を表明しないよう無難に活動してきましたが、それだとどんどんカラーが見えなくなるというリスクもあります。
炎上を恐れ過ぎるより、企業として何が大事なのかを社員と常に握り続け、「我々はこういう発言はしない。でも、こういうことはあえて言う」という姿勢を社員みんなで確認しながら貫いていくしかないと思います。コミュニケーションにおいて誤解は必ず起こるので、そのときは心を込めて言葉を尽くしていくしかありません。
最初から炎上させようと思って燃やしに来る人には、事実と違うことを証明すれば勝てると思います。ただ、正義感で燃やしに来る人もいることを忘れないでいただきたいですね。そういう人たちに「悪意で燃やそうとしている」と対応すると、大きく炎上してしまいます。
なぜ、それを言ってきたのかを理解してコミュニケーションを取れば、怒っていた人がファンになってくれるケースもあると思います。だから、炎上を恐れるより、炎上の対応の失敗を恐れてください。その失敗が、本当に怖い大炎上を生むのですから。

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