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コロナで加速する誹謗中傷~正義を振りかざす「極端な人」の正体~【第29回ウェビナーレポート】

公開日:2020.12.09 最終更新日:2023.06.20

パネリスト

桑江 令(くわえ りょう)

シエンプレ株式会社 主任コンサルタント 兼 シエンプレ デジタル・クライシス総合研究所 主席研究員。 デジタルクライシス対策の専門家として、NHKのテレビ番組に出演したり、出版社でのコラム、日経新聞やプレジデントへのコメント寄稿も担当。一般社団法人テレコムサービス協会 サービス倫理委員も務める。

ゲストパネリスト

山口 真一(やまぐち しんいち)氏

国際大学グローバル・コミュニケーション・センター准教授。 2010年慶應義塾大学経済学部卒、2015年同大学経済学研究科で博士号(経済学)を取得し、国際大学グローバル・コミュニケーション・センター助教などを経て、2020年より現職。研究分野は、ソーシャルメディア、フリー・ビジネス、プラットフォーム戦略等。「あさイチ」「クローズアップ現代+」(NHK)をはじめ、テレビ・ラジオ番組にも多数出演。主な著作に『炎上とクチコミの経済学』(朝日新聞出版)、『ネット炎上の研究』(勁草書房)、『ソーシャルゲームのビジネスモデル』(勁草書房)などがある。

社会不安と連動? 炎上件数が増加傾向

桑江:2020年の炎上件数を改めてお伝えすると、4月は246件で前年比3.4倍に増えました。6、7月はいったん落ち着きましたが、8、9、10月はいずれも100件を超えたところです。新型コロナウイルス感染拡大の第3波が到来している中で、年末にかけての炎上件数も増えそうな気がします。

山口:一番目を引くのは4月の3.4倍という件数です。東日本大震災、熊本地震の際もそうでしたが、社会全体が不安になると必ず炎上件数が増えます。
コロナ禍でも「どこでどんな感染者が出た」といった直接的な炎上が増えただけでなく、通常の営業活動をしている芸能人や企業を攻撃的に批判する人が増えて炎上しやすくなりました。
なぜかと言うと、「悪者」を見つけて批判をすることで不安を解消しようというメカニズムが働くからです。企業がイベントなどを発信するときはリスクが高いと思って常に注意する必要があります。

桑江:6、7月の炎上件数がかなり減ったのは、テレビやインターネットなどで炎上が日々報道される中、企業側がプロモーション活動やコミュニケーションを自粛したからという可能性もあると思います。一方、8月からは国の「Go Toトラベルキャンペーン」も本格化してコミュニケーションを積極的に取るようになった中で、再び炎上件数が増えたという見方ができるでしょう。
さて、1~10月の炎上件数に占めるコロナ関連の割合は12%でした。2020年の炎上件数は前年比15%増で着地する見通しの中で、コロナ関連が原因の12%という数字をどう見たらいいでしょうか。

山口:直感的にコロナ関連が12%だけだったのは少ないと思いました。もっと占めてもおかしくない印象ですが、裏を返せばコロナ以外の話題も4月の炎上件数を前年比3.4倍まで押し上げるのに寄与していたというのが衝撃的でした。社会不安が広がれば炎上リスクが高まるということが、ここからも見えてくると思います。
年間で前年比15%という増加分は、コロナ関連の炎上件数が上積みされた結果でしょう。一方、実際にはコロナ以外の炎上も増えていたものの、発信に気を付けたことで15%程度の伸びに抑えることができたという側面もあるかと思います。

桑江:コロナ以外で目立つのは、ここ数年のトレンドとなっている「ジェンダー炎上」です。同時に、炎上を回避して絶賛された事例も出てきています。2020年11月15日のテレビ番組で放送された「下着メーカーのブラジャー10商品の人気ベスト3を当てましょう」という企画は、ネット上で「これは危ないのではないか」という声が上がっていたようですが、結果的には男女双方の視聴者に「神回」と称賛されました。
「下ネタ」という形の取り上げ方ではなく、男性芸人たちが笑いを交えながらもブラジャーの機能性を真面目にレビューする内容に仕上がっていて、下着を楽しむ女性の気持ちを理解しようとしている姿勢、番組作りが共感を集めたということです。
番組で扱った内容はジェンダー炎上を招いた事例と似ていますが、メッセージングや企画の趣旨でこれだけ受け止め方が変わるということだと思います。

山口:ジェンダー関連は非常にセンシティブで燃えやすいのですが、今回絶賛されたのは非常に興味深い事例です。こういうネタは昔からテレビで取り上げられていますが、商品を真面目にリスペクトし、性的に茶化すことがなかったのが1つのポイントに挙げられます。
一方、過去のジェンダー炎上の事例で見受けられるのは、2次元のイラストや創作物の人形を題材にしたキャンペーンなど。生身の女性を扱っているわけではないということで問題意識が薄れ、表現がいき過ぎてしまったということが考えられます。例え架空のコンテンツでも、批判される場合があると認識した上で広報などを展開しなければならないでしょう。

ネットユーザーの半数超が「炎上を毎週見聞き」

桑江:続いて、シエンプレのデジタル・クライシス総合研究所が2020年11月中旬に実施した「炎上事案の特性に関する調査」結果を共有します。
47都道府県に住む10代から60代の5000人(男女50%ずつ)を対象とした調査で、炎上を見たり聞いたりした頻度が1日1回以上と答えた人は19.9%、週1回はあるとした人は54%に上りました。もはや炎上は身近で、特別なものではないと言えるのではないかと思います。

山口:私が2014年頃に調査したときも、炎上を見たことがある人は93%くらいいました。それから6年経ち、週1回も認知している人がすでに54%もいる。しかも10代から60代まで通してというのがポイントで、炎上の社会的影響は少なからずあるということが見えてくると思います。

桑江:確かに、炎上を見たり聞いたりしたことがないという人は3.9%しかいませんでした。炎上を認知した媒体はSNSが最多の57.6%で、2番目に多かったテレビが50%ほど。SNSを普段から使っている人はSNSで知り、SNSをあまり使っていない人はテレビで知るという両軸に分かれている印象があります。

山口:テレビの視聴者は何千万人もいるので影響力が強く、SNSを使っていない人にも拡散するため「拡声器」になっていると指摘されてきました。ただ、このデータを見るとSNSから直接認知する人がかなり増えています。
SNSが最多だったのは利用する人数も時間も増えたのが影響していると同時に、テレビの相対的な力が弱まっていることの証左でもあると思いました。
一方、依然としてテレビの拡散力が高いのも事実なので、炎上した場合にテレビで報道されるとすごく影響があるという状況はまだまだ変わらないと感じます。

桑江:認知した炎上について、なぜ、どのように炎上したのかという情報をまとめサイトなどに見にいくかどうかも調査しました。これによると、著名人が炎上した場合の情報クリック率は38.6%でした。一方、法人も35.5%、一般人も29.3%に上りました。

山口:興味深いのは、法人、一般人も著名人とそんなに差がないということです。全体の3割くらいの人は、どんな炎上でも割と突っ込んでいくと。誰の炎上であっても、理由や内容が気になる人は多いということでしょう。自分と全く関係のない他人の行動にも、それなりに興味を示す人が多いという実態が見えてくると思います。

炎上企業の商品購入などを控える風潮も

桑江:企業の炎上が商品・サービスの購入、利用にどれだけ影響を及ぼすかも聞いたところ、10.2%の人が実際に購入や利用を停止した、または停止しようと思い、家族や友人、同僚などにも事象を共有して停止を推奨したということです。購入、利用を再検討する(した)のは33.5%、優先順位の低下など何らかの影響を受ける(た)のは52.5%と半数超に達しました。

山口:再検討の33.5%というのは、かなり大きい数字だと思います。炎上を週1回以上見ている人が50%以上いるうち、3割以上の人は購入行動を変える可能があるということです。企業の業績に少なからず影響を及ぼすのが炎上だと理解しています。

桑江:炎上した場合に企業はどうするのかということに絡む話ですが、58.6%の人が事後対応をチェックすると答えています。うち30.4%の人は事後対応が納得できるものであれば「良い印象を受ける」としました。

山口:実際に、炎上したけれど対応が適切だったことで称賛された事例も少なからずあります。「炎上してしまったから終わりだ」ということではなく、しっかり対応するということが企業にとって重要だと感じます。

攻撃的で自己主張が強い「極端な人」

桑江:ありがとうございます。後半は、山口先生の著書「炎上と口コミの経済学」「正義を振りかざす『極端な人』の正体」を参考にさせていただきながら、ネット炎上の実態などを掘り下げたいと思います。まず、ネット上にあふれる「極端な人」とは、どういう意味でしょうか。

山口:いくつかポイントがありますが、誹謗中傷や批判を書き込む人は非常に特殊な考え方を持っているということが分かってきています。
例えば「ネットでは非難し合っていい」「世の中は根本的に間違っている」「ずるい奴がのさばるのが世の中」といった考え方。社会に対して否定的、不寛容、攻撃的な人が参加しているのが炎上であるということが見えてきました。

出典:山口真一著・光文社新書「正義を振りかざす『極端な人』の正体」

桑江:そういった「極端な人」が、なぜネット上にあふれているのでしょうか。

山口:尖った考え方の持ち主は社会全体では少ないのですが、ネットの根源的な特徴が「極端な人」があふれる原因になっています。ネットというのは能動的な発信しかない言論空間。つまり「言いたいから言っている」ということだけで構成されています。
例えば、既存の世論調査は「聞かれたから答える」という受動的な発信だけなので、社会の意見分布に極めて近くなります。
しかし、能動的な意見しかないネットは真逆で、強い思いを持っている人ほど多く発信します。では強い思いを持っているのは誰かと言うと、「極端な意見、攻撃的な意見を持っている人です。

桑江:確かに、ネットを炎上させる「極端な人」の割合は、わずか0.5%と言われています。

山口:以前、「憲法改正」というイシューについて意見分布とSNSの投稿回数を調査したことがあります。社会の意見分布を見ると、最も少ないのが「絶対に反対である」「非常に賛成である」で、共に7%ずつでした。多かったのは「どちらかと言えば賛成」「どちらかと言えば反対」という中庸的な意見。要するに山形の意見分布になるわけです。
ところが、SNSで最も書き込まれていたのは「非常に賛成である」、次が「絶対に反対である」という意見で、合わせて46%にもなりました。社会には14%しかない意見が半数近くを占めたのがネット上の言論空間というわけです。

桑江:情報量が少なく偏っている人は主観の入った過度な解釈に走りやすく、ネットの匿名性の高さが自己中心的な考え方に拍車を掛けてしまうこともあると思います。

山口:エコーチェンバーやフィルターバブルと呼ばれるように、自分が接したい情報にばかり接することで考え方がさらに極端になっていく現象が起きるのです。
非対面のコミュニケーションは対面より攻撃的になってしまうという社会心理学の研究に基づく特性があり、ソーシャルメディア上では攻撃的な感情を持つ投稿が最も拡散されやすいという複数の研究結果も出ています。
そういった現象ばかりが見えてしまうことで、私が以前行った調査では「ネットには攻撃的な人が多い」という回答が75%ほどを占めました。それくらい、ネットというのは怖い空間になってしまっていると言えると思います。

桑江:実際にコロナ禍の中で起きたのが「自粛警察」というところですね。

炎上に加わる確率が高いのは「高収入の役職者男性」

山口:炎上参加者の一番のポイントは属性です。どちらかと言うと高収入で、主任・係長クラス以上の男性である確率が高いということが分かってきました。
例えば、世帯年収の平均を見ると炎上参加者の方が非参加者より80万円も高いのです。また、非参加者のうち主任・係長クラス以上の割合は18%でしたが、参加者では1.5倍以上の31%に跳ね上がりました。こうした肩書を持つ人の方が炎上に参加しやすいということは、間違いなく言えるだろうと思います。
さらに、炎上参加の動機を調査した結果、どの炎上事例も60~70%は「許せなかったから」「失望したから」といった正義感によるもので、ストレス解消や楽しさを求めた人はほとんどいませんでした。

出典:山口真一著『炎上とクチコミの経済学』
(※上記グラフは、2016年の調査を元に山口真一氏が作成)

桑江:なるほど。

山口:肩書と動機を総合すると1つの姿が見えてきます。そうした層は政治などに詳しく、自分と違う考えの人に否定的、攻撃的なメッセージを送ることがあります。さらに、企業や学生の不正行為などを上から目線で叱りつけるというメカニズムも存在し、それらが炎上の大きな部分を占めていると言えるのです。

桑江:その一方で、委縮する方にも課題があるということですね。

山口:企業の皆さんは批判を浴びたとしても、あるいは賛同されたとしても、それらが代表的な意見とは限らないということを常に考えた上で消費者の声に耳を傾ける必要があります。委縮してしまうと発信に制限がかかり、メッセージが中庸的で面白味のないコンテンツばかりになってしまいます。そうならないためにも気を付けていく必要があるでしょう。

炎上に萎縮し過ぎず、正しい対応の判断を

桑江:最近はよく、非実在型炎上も取り沙汰されるようになりました。批判する人は少ないにも関わらず、まるで大問題になったかのようなタイトルをつけて報道するマスコミやネットメディアが見受けられます。

出典:山口真一著・光文社新書「正義を振りかざす『極端な人』の正体」
徳力基彦 https://note.com/tokuriki/n/n8823a0f3ec67

山口:非常に多いですね。マスメディアのレベルでも存在します。ただ、ネットメディアに目を向けると、少しの批判で「炎上している」と煽り、ページビュー(PV)数を稼いで儲けるというビジネスモデルが成立してしまっているんですよね。
それは不寛容な社会を加速させますし、非常に良くない。有効な対策が見つかっているわけではありませんが、ここを変えていかないと豊かな情報社会の発展は難しいと懸念しています。

桑江:正しい対応であれば、企業側が毅然とした態度を取ってもきちんと評価される世の中になっていると思いますので、そのあたりはぜひ意識していただければと思います。
逆に我々自身が「極端な人」にならないためには、どんな行動に注意すべきでしょうか。

山口:自分が触れている情報の偏りを確認した上で、冷静に判断することが重要です。怒りや正義感を覚えると気軽に書き込んでしまいがちですが、わざわざオープンなネット上で言うべきことかと一呼吸置き、自分を客観的に見る、情報から一度距離を取ってみましょう。
「1億層メディア時代」だからこそ、アナログ的な「自分がやられて嫌なことはしない」「他者を尊重する」という当たり前の道徳心を育むべきです。そうしたことが、豊かな情報社会をつくっていく上で極めて重要だと考えています。

桑江:ネット炎上を避けるため、個人、企業にとって「一番重要なこと」は何でしょうか。

山口:企業は常に消費者目線で発信しなければいけないというのは当たり前のように言われていますが、実はできていないことも多いんですよね。
特に大切なのは、自社の顧客の立場で物事を考えること。発信する際は常に、自社の主要顧客がどう見るかを冷静に見極めなければなりません。相手の立場で物事を考えるのは企業だけではなく、個人が炎上を避ける上でも重要です。
また、企業でコンテンツを制作するときは多様な人をそろえるだけでなく、自由に発言できるような心理的安全性を確保することも非常に重要だと考えています。

桑江:炎上してしまった場合の「一番重要なこと」は、どう考えていますか。

山口:萎縮し過ぎず、謝罪するかどうかもしっかり判断して対応を決めなければなりません。謝罪するにせよ主張を貫くにせよ、事実の公表をすごく意識する必要があります。例え消費者に非があるとしても反論や批判をするのではなく、事実だけを公表する。謝罪する場合も言い訳や隠蔽をするのではなく、あくまでも事実の公表に徹することが重要だと思います。

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