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清水陽平が考える「企業におけるネット口コミの対処法」【第30回ウェビナーレポート】

公開日:2020.12.16 最終更新日:2023.06.20

パネリスト

桑江 令(くわえ りょう)

シエンプレ株式会社 主任コンサルタント 兼 シエンプレ デジタル・クライシス総合研究所 主席研究員。 デジタルクライシス対策の専門家として、NHKのテレビ番組に出演したり、出版社でのコラム、日経新聞やプレジデントへのコメント寄稿も担当。一般社団法人テレコムサービス協会 サービス倫理委員も務める。

ゲストパネリスト

清水 陽平(しみず ようへい)氏

弁護士(東京弁護士会所属)。法律事務所アルシエン共同代表。 2004年早稲田大学法学部 卒業。2007年弁護士登録。2010年に法律事務所アルシエンを開設し、現在に至る。 主な得意分野は、ネット中傷の削除・発信者情報開示請求、損害賠償請求・刑事告訴、ネット炎上対応、ストーカー対応。ネット中傷に関する案件の取扱いが多く、同分野の弁護士向け講師として招かれることも多い。『サイト別 ネット中傷・炎上対応マニュアル』『企業を守る ネット炎上対応の実務』など多数の著書を出版している。

ネット中傷者の電話番号を開示へ

桑江:誹謗中傷に関して、電話番号開示の動きが加速しています。総務省では清水先生も参加されている検討会が始まり、電話番号を迅速に開示できるような動きになっているところです。

清水:電話番号は開示請求できることになっていますが、電話番号を持っているのは大体が海外事業者で、それほど多くないと思います。
また、開示請求する際の手続きには仮処分と普通の裁判があり、電話番号は裁判手続きでなければ開示請求できません。
さらに、海外に請求するとなると送達という手続きが必要で、相手に訴状を送るまでに半年くらいかかってしまいます。現状では、実際に電話番号が開示されるまでの期間はそれほど早くなることはなくて、どこまで相手を特定できるかは何とも言えません。
そもそも事業者は電話番号を必ず持っているわけではないことから、開示請求だけではまだまだ不十分かと思います。

桑江:ただ、これまでの体制からすると、ようやく一歩進んだという感じではあるのでしょうか。

清水:国内では2019年12月、SMSのアドレスという形で携帯電話番号の開示請求が認められた判例がありました。だから、制度改正がなくても開示請求自体はできるだろうと思いますし、争わなければならないポイントが減ったという意味でも良いのかなと思います。

桑江:開示請求に向けた世論的な動きは2020年5月末、ネット上で誹謗中傷された女子プロレスラーが自殺した事件がきっかけだと思いますので、今後の成り行きをウォッチしていきたいですね。

清水:そうですね。開示請求の裁判手続を簡素化する方策のパブリックコメント受け付けが終わったところですが、簡素化できれば電話番号の開示までの期間も短くなると思います。

対処法は「書き込み削除」と「発信者特定」

桑江:続いて、ネット中傷への対処法についてお話いただきましょう。清水先生の著書「サイト別ネット中傷・炎上対応マニュアル(第3版)」によると、対処法には「書き込みの削除」「書き込んだ人の特定」「検索エンジンからの削除」「逆SEOによる対応」の4つが挙げられると思います。
以前まではネットに書かれたことは消せない、無視するしかないと言われていましたが、適切な手段を踏めば削除できる可能性が高まってきているところです。
どんな内容でも削除や発信者情報の開示ができるわけではないと思いますが、まずは何をもって権利侵害と言えるのでしょうか。

出典:清水陽平 著書『サイト別ネット中傷・炎上対応マニュアル[第3版]』

清水:削除と開示請求の要件は若干違っていて、削除請求は基本的に人格権侵害と言われるものが必要です。人格権とは何かと言うと、名誉権やプライバシー権や肖像権。人格権に含まれないものとしては、企業だと営業権と言われるものになります。
「書かれたことによって営業上支障がある」というだけだと削除請求は難しいということになります。削除請求の場合は名誉権侵害と言えることが必要です。
一方、開示請求は権利侵害なら何でもいいとされているので、営業権侵害のようなものも含まれるという点で削除とは違ってきます。
何をもって権利侵害というかは書き込まれた内容次第なので、一言で「こうです」というのは難しいですね。
何かしらの単語や一文の有無で決まるわけではなくて、前後の文章の流れから「これはちょっと書かれ過ぎだ」と言えるかどうかという判断になります。概要や事案ごとに権利侵害の有無を判断する必要が出てくるので、判断はなかなか難しいと思います。

桑江:なるほど。企業としてこの辺りに注意すべき、意識すべきという点はありますか。

清水:営業上の不利益だから削除したいという要望は強いかと思いますが、事実無根かつ営業の支障になっていると言える必要があります。裁判手続を使う場合は特になのですが、事実無根であることを裏付ける証拠にどんなものがあるのかも、検討するときには非常に重要になってきます。

桑江:社名が伏字になっている場合も権利侵害を認められますか。

清水:そうした事例はあまりないだろうとは思いますが、話の流れからどこの会社のことを言っている、誰のことを言っているというのが分かるのであれば対応可能かと思います。

桑江:書かれた内容はさておき、企業特有のキャッチフレーズも対象となり得るのでしょうか。

清水:書いてあることの流れから「どこの会社のことを言っている」「誰のことを言っている」というのが分かると思うんですよね。例えば、掲示板で大きな話題になっている事象があれば、主語がなくてもどんどん書き込みが続いていくこともありますし、Twitterでもリプライなら主語がないままどんどん話が続いていく場合もあるわけです。
その流れの中から誰のことを指しているかが十分読み取れる、読み取れるから会話が成り立っている要素もあると思いますが、そういったことで特定の会社を指していると判断するのは十分可能だと思います。

桑江:Twitterの「いいね」やリツイートが権利侵害に当たるかどうかという話もいくつか出ていますが、どのような見解でしょうか。

清水:一応、名誉棄損に当たるだろうとは思います。ただし、「こういう意見があるけれど間違っているよ」と自分の意見を言うためにリツイートしたということなら、リツイートした行為だけを捉えるのではなく、前後でどんな発信をしたのかを含めて判断されることになるでしょう。
単にリツイートや「いいね」をしているから名誉棄損になるわけではないという点は注意が必要です。

裁判を起こさなくても削除を請求できる

桑江:次は、削除依頼の方法について解説いただければと思います。パターンとしては「オンラインフォームからの削除依頼」「テレコムサービス協会の書式による削除依頼」「裁判(仮処分)での削除命令」の3つがありますね。

清水:大きく分けると、裁判を使う手続きと使わない手続きに分けられます。相手が分かっていて直接コンタクトできるなら、裁判を使わなくても削除できる可能性があるわけです。直接話をするのも1つですし、メールやフォーム、電話で請求することもできます。
また、相手が分かっていてもいなくても、コンテンツプロバイダやホスティングプロバイダに対して削除依頼をすることも考えられます。コンテンツプロバイダというのは例えばTwitterなどを指し、ホスティングプロバイダはサーバー会社です。
裁判手続としては仮処分ですね。書き込んだ相手が分かっていて削除をお願いしたけれど応じてくれない場合は、本人に対して仮処分の裁判を起こすことが可能です。
ただ、ネット上だと匿名で書き込まれることが多いので、本人に対して裁判を起こすというのは難しいパターンの方が多いと思います。そうした場合はコンテンツプロバイダやホスティングプロバイダに対して裁判手続きを行っていくことになるかと思います。

桑江:サイトによってはメールフォームやオンラインフォームが準備されていたり、クリックするとメールソフトが立ち上がったりしますので、そこから削除依頼をすることができますね。
テレコムサービス協会は私もサービス倫理委員を務めているのですが、書式について改めて解説いただければ幸いです。

清水:テレコムサービス協会は電気通信事業者でつくる団体です。ここが公開しているガイドラインの書式に基づいて削除を依頼するという形ですね。依頼書を送って7日以内に反論がなければ削除して良いというルールになっています。

桑江:協会では、この半年間でかなり削除依頼が増えたと話していました。女子プロレスラーの誹謗中傷事件を踏まえ、申請が増えたという気がします。

清水:削除を求める送信防止措置の依頼書を送られたプロバイダは基本的に、書き込んだ本人に意見照会を行うことになっています。
7日以内に回答がなければ削除しても良いというルールですが、必ず削除しなければならないということではありません。請求すれば何でも削除されるというわけではないという点は注意が必要です。
先ほど、削除を求める場合は人格権侵害でなければ認められないと話しましたが、それは裁判だけ。送信防止措置依頼書の場合は権利に限定はないとされているので、そこに営業権侵害と書くのはOKです。
権利が侵害された理由は具体的に書く必要があります。依頼書を受け取ったコンテンツプロバイダが「これは削除しなければ」と思ってもらえないと削除してくれないので、しっかり書くべきです。

出典:清水陽平 著書『サイト別ネット中傷・炎上対応マニュアル[第3版]』

桑江:依頼書をどこに送ればいいのかというのは、「WHOIS(フーイズ)」というサービスを使ってIPアドレスやドメインなどの登録情報を検索できます。そこで郵送先を調べればいいということです。

清水:ドメイン登録者とサーバー契約者が異なっていることもあります。ドメイン登録者とサイト運営者が同じであれば対応してもらえることが多いと思いますが、大手のサービス以外だと「WHOIS」をプロテクト(非公開化)して運営者が分からない場合もあります。
その際はサーバー会社(ホスティングプロバイダ)に削除を請求するのですが、アグスネット株式会社の「aguse(アギュース)」が使いやすいのかなと思います。「aguse」を使えば「WHOIS」登録者とサーバー会社の両方が分かるんですね。

桑江:続いて、裁判(仮処分)での削除命令についてお聞きしたいのですが。

清水:削除を依頼しても応じてもらえない場合は、いきなり仮処分の手続きを取っていただいても構いません。仮処分とは、基本は1週間とかで簡易迅速に判断してもらえる手続きです。
ただ、「取りあえず請求内容は確からしい」という形で発令してくれるものなので、絶対に間違いないというところまで判断してもらえるわけではないんですね。請求が間違っていた場合の賠償の前提として担保金を供託しなければならないのが特徴です。

発信者情報の開示請求はスピードが肝心

桑江:次は開示請求の方法に関してですが、まずはサイト管理者に発信者情報の開示を求める場合。これはサーバーにアクセスされた履歴などの開示を求めるものですね。

清水:普通に書き込みを見ただけで、どのプロバイダが使われているというのは分からないわけです。ネット上では掲示板などに書かれた内容しか見えないので、そこから逆にたどって相手を特定していく手続きが必要です。
だから、まずはコンテンツプロバイダに開示請求しなければいけないということになっています。
ただ、サイトが持っている情報はせいぜいメールアドレスとかパスワードくらい。匿名掲示板であれば、保存されている履歴はIPアドレスとかタイムスタンプくらいですが、その情報を提供してくださいというのがサイト管理者に対しての開示請求です。

桑江:もう1つ、アクセスプロバイダに対して請求する方法もあります。

出典:清水陽平 著書『サイト別ネット中傷・炎上対応マニュアル[第3版]』

清水:IPアドレスを調べるとどこのプロバイダを使ったかが分かるので、アクセスプロバイダに対して契約者に関する情報を開示してくださいと請求することになります。
ただ、コンテンツプロバイダ、アクセスプロバイダへの請求は裁判を使わずにできますが、実際には通信の秘密の問題や個人情報保護の問題があるので、裁判手続きで「開示しなさい」と言われなければなかなか難しいというのが現実です。
ログが見つからない、あるいは保存期間が切れていたという場合も当然、開示できません。携帯電話会社は基本的に3カ月くらいしかログを保存していないので、書き込みから1、2カ月以内でなければ相手を特定できない例が多いと思います。

URLや書き込み日時…証拠保全がカギ

桑江:スピーディーに進めるためにも、法律の専門知識がある弁護士に相談するのが得策ということですね。実際に相談する場合の注意点はありますか。

清水:「こういうことが書かれていました」という申告だけでは、請求を受けた方も調べようがありません。だから、書き込まれたという必要最低限の証拠は絶対に欲しいということになります。スクリーンショットやPDFに取るとか紙に印刷する、カメラで撮っておくことなどで構いません。
XTMLドキュメントとして保存する方もいますが、これだとCドライブとかに保存されるだけです。書き込みがどう表示されていたのか、URLがどうなっていたのかが分からないことが普通なので、それだけでは足りないと思います。
また、スクリーンショットを残す際はURLがきちんと分かるようにして、書き込まれた日時も分かるとなお良しです。
Twitterなどのタイムラインで見ていると投稿時間が見えないので、個別の投稿ごとに表示させてスクリーンショットで取っておく方がいいです。
ただ、携帯電話、スマホではアプリで見るとURLが表示されません。ブラウザで見たとしてもスマホは表示画面が小さいのでURLが全部表示されないことが往々にして起こります。スクリーンショットはパソコンで記録した方が証拠として使いやすいと思います。

桑江:アカウント自体を消す加害者もいる中で、被害状況を確認できなければ開示請求もできません。開示請求するなら、削除される前に証拠を保全しましょうということですね。

清水:そうですね。スマホのスクリーンショットでも、それを足掛かりに何かできるかもしれません。誹謗中傷かなと思ったら、きちんと証拠を取っておくのがベターかと思います。

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