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デジタル・クライシス白書-2020年12月度-【第32回ウェビナーレポート】

公開日:2020.12.30 最終更新日:2023.06.21

パネリスト

桑江 令(くわえ りょう)

シエンプレ株式会社 主任コンサルタント 兼 シエンプレ デジタル・クライシス総合研究所 主席研究員。 デジタルクライシス対策の専門家として、NHKのテレビ番組に出演したり、出版社でのコラム、日経新聞やプレジデントへのコメント寄稿も担当。一般社団法人テレコムサービス協会 サービス倫理委員も務める。

パネリスト

前薗 利大(まえぞの としひろ)

シエンプレ デジタル・クライシス総合研究所 研究員 2011年、シエンプレ株式会社に入社。 桑江の元で多くの案件に携わり現場を経験した後、 代理店担当としてアサツー・ディ・ケイなどとの協業で、 官公庁の他、日本を代表する大企業のリスク対応を多く担当している。

サッカー界のスーパースターに降りかかった「バイトテロ」

桑江:まずは、いわゆる「バカッター」「バイトテロ」に近いところ。サッカーのアルゼンチン代表を務め、国民的英雄だった元選手の葬儀を任された会社のアルバイトスタッフが、サムズアップのポーズで遺体とともに写真を撮り、SNSにアップしたことで大炎上しました。

前園:まさに、日本で言う「バイトテロ」に近い話だと思います。やはり炎上すべくして炎上したというところ。元選手はアルゼンチンではかなり神格化された存在で、宗教的価値観すら否定した行動が大規模な炎上につながってしまったのではないでしょうか。一方、葬儀会社は比較的すぐに謝罪したことが日本でも報道されましたので、事後対応としては良かったとは思います。

桑江:葬儀会社は問題を起こした従業員をすぐに解雇し、社長が涙ながらに謝罪したことで、うまく対応できたというところです。ただ、そもそも携帯電話を持ち込ませないといった対応はできたはずだと思います。

前園:さまざまな報道を見ていると、携帯電話の持ち込みは禁止していたという話もありましたが。

コロナ禍で緊縮…のはずが「トップだけ贅沢」

桑江:そうした対応をしっかりやっておけば、企業側への批判は緩むということは言えると思います。
続いてもサッカー関連でいくと、コロナ禍で選手の給与削減やスタッフの一時解雇をしているイギリスのクラブで、CEOが愛妻に高級外車をプレゼントしたと。
それ自体はプライベートの買い物ですが、経営が悪化している状況で「自分だけ贅沢するな」という批判が殺到した例です。社会の分断が起きている中、自分より恵まれた環境にいる人がこのような行動をすると「けしからん」となってしまうということだと思います。

前園:こうした問題は今後、国内でも起きそうですね。

桑江:国内にも、従業員のボーナスカットや雇い止めをしている企業はあると思います。無駄遣いと思われるようなものに会社のお金を費やすのはひどい。しかし、例えプライベートだとしても、役員のような立場の人がこうした形で出費をしたことが表面化してしまうと批判が出ることもあるでしょう。

前園:コロナ禍の中では、経営者の方が積極的に寄付をするといった行動も報道されています。だからなおさら、SNSユーザーは自分のためだけに散財しているように見える行動に反応しがちなのかとは思います。

一般SNSユーザーの発信力を侮ってはならない

桑江:次は、東証一部上場企業A社の社長に罵声を浴びせられた従業員が暴言の内容を録音し、週刊誌で暴露したことによる炎上例です。
電話の録音や隠し撮りを含め、何らかの音声や映像データがこういう形でさらされてしまうことがあります。
もちろん、週刊誌などのメディアだけでなく、社員や社員の家族を含む一般のSNSユーザーも相応の発信力を持っていることを意識した上で、普段から対応しなければいけないのだと思います。

前園:社内でのコミュニケーションがそのまま切り取られて社外に出ていくというのは、もはや当たり前に起こり得ると考えておいた方がいいと思いますね。

桑江:続いて、デジタルコンテンツプラットフォームのB編集部ですね。この編集部は直近に二度も炎上する事案を起こしていた中で、「自死」をテーマに連載を開始する予定だった女性作家が「『センシティブなテーマを扱っているので掲載できない』と編集部に言われた」とSNSで明らかにしました。
不穏なテーマの連載取り止めは「自死」がテーマだったからというより、二度の炎上を受けて判断したと思われ、そうした負い目のある相手には女性作家も強く出やすかったのだと思います。
女性作家の投稿は、炎上事案に乗じて「自分もこんなひどい目に遭った」と追い打ちをかけるような投稿が増えるという傾向に似ている気がします。裏を返せば、編集部が仮に炎上していなかった場合にこのような投稿をしたかどうかは、見方が分かれるのではないかと思います。

前園:炎上につけ込む形でうまくいけばいいのですが、厳しい目を光らせている方もいらっしゃいます。炎上に便乗して自分が便益を得ようとする行為も炎上しがちで、そのような事例はたくさんあります。盛り上がっているテーマに絡もうとするときは非常に注意が必要です。

桑江:次は、ハリウッド映画作品のCの炎上例です。劇中に差別的な発言があるとして中国で公開中止になりました。中国人を侮辱する表現があるという声がソーシャルメディアで広まった結果で、やはり一般の方の発信力がもたらす影響は世界的にも大きくなっていると言えるのではないかと思います。

前園:海外にこの情報が出たときに、どういう捉えられ方をするのか、その国においては何か許されざる行為なのかということは、インシデントチェック、クリエイティブチェックの段階でしっかりと確かめておく必要があるでしょう。これは、避けられた炎上だったのではないかと思います。

創業者の「暴走」を止めることが大切

桑江:続いては、台湾の高級チョコレートメーカーの不買運動です。発端は2015年、当時の会長が起こしたわいせつ事件が台湾のインターネット掲示板で公開され、問題視されたことでした。
さらに被害女性に対し、この会長の息子で高級チョコレートメーカー創業者の男性がSNSで誹謗中傷の投稿を行っていたことも改めて大問題になりました。日本でも創業者の不祥事という流れで言えば、化粧品やサプリメントを製造販売するD社の会長が自社の公式サイトにヘイト的文章やそれに絡めた他社批判を掲載し、国内外でかなり話題になったところです。

前園:商品リリースなどの際は指摘されるポイント、批判の対象になるポイントはないか、しっかりとチェックをしていく必要があります。些細なものでも、見つかってしまえば炎上状態になることがあり得るので。
D社におけるヘイトスピーチに近いコンテンツの掲載も、何とか止める術はなかったのかと思います。一方、会社側が特に対応していないところを見ると、状況が落ち着くのをじっと待っているという可能性も考えられます。

桑江:次は、テキーラを一気飲みするゲームで女性が急死した事故で、実業家のD氏が飲酒を強要したと騒がれて炎上した件です。
ネット上の言説を見ていくと、D氏はメディア系の人脈も強固なので、当初はなかなかこの話題が報じられなかったと。それに対して、Twitterの有名アカウントが取り上げて、ようやく明るみになった経緯がありました。
これまでなら表に出なかったかもしれないような事案が、ネットの力によって明るみになっているということですね。もちろん、それが事実ではない場合は大変なことになるのですが。そうした問題に巻き込まれてしまうことの恐ろしさは、会社としても個人としてもしっかり考えなければと思います。

前園:もともとは、そういうゲームをしていたのかどうかというインシデントだったにも関わらず、そもそも彼がやってきたビジネスは正しいのかという議論にまで発展してしまったというのは、経歴詐称が騒がれた若手実業家のT氏と同じ炎上経過をたどっていると思います。

桑江:次は、芸能人が立ち上げた服飾ブランドのドレスデザインのうち、複数が盗作だったという事例です。
この件をめぐっては、ブランドに関わった芸能人ら3人の対応への評価が分かれました。恐らく、3人とも盗作とは知らなかったと思いますが、その後の対応をどこまで真摯にできるかというのは芸能人であっても企業であっても同じ。いかに早く的確に対応できるかが問われるところです。

前園:しっかりと早い段階で、謝るべきところは謝ってしまうというのがポイントになると思いますね。最近は商品のキャスティング絡みで炎上する例が増えていますが、いかに早く自身の責任を認めて謝罪するかという点で評価が分かれることになると思います。

「炎上した」と考えるかどうかは企業次第

桑江:2020年11月28日に公開された米国のスポーツメーカーE社の最新CMが物議を醸しました。「日本には差別がある」ということをこれだけ明快に描いたものはあまりなかったため、かなりの反響が出たところです。
否定派からは「このCM自体が日本人を差別している」「差別はすべての国にある」といった意見が挙がり、肯定派は「全く日本人差別と感じなかった。むしろ差別に抵抗している素晴らしいCM」「人種問題にこれほど公然と取り組んでいるCMを初めて見て鳥肌が立った」などと主張しました。
しかし、E社は2018年にも人種差別に反対して国歌斉唱の際に起立を拒んだNFL選手を広告に起用しており、その流れの中で日本のCMも制作されたというところでしょう。ちなみに、NFL選手の広告は一部で批判を招きましたが、E社の売上自体は伸びたと言われています。

前園:デジタル・クライシス、炎上かどうかを定義するのは、あくまでも企業次第。どこまで想定しておくかというところかと思います。
今回のケースで、E社は批判も称賛も含めて意見が上がること自体を織り込んだ上でCMをリリースし、想定通りの展開になったと捉えています。ですから、個人的にはこれは炎上ではないと考えていますが、日本国内でこうしたテーマを扱うのは非常に危なっかしいということに変わりはないと思います。
E社は米国での前例や確固たるブランドの地位があるのでこうした評価を受けていますが、同じようなテーマを日本企業が扱った場合は炎上してしまう可能性が十分あるので、ひとつずつシナリオをつくってリスクがあるかどうかを検証していく必要があると思います。

桑江:ネット上でしっかり分析すれば半数以上が肯定しているようなものであっても、批判が殺到することにより「非実在型炎上」と呼ばれる形で出てきてしまうということが実際に起こっています。これは、メディアの煽りという問題があるのかなという気がします。

前園:非実在型炎上と同じ意味合いで使われる「コタツ記事」、いわゆるファクトチェックをせずに、ネット上で多少盛り上がっているからといって記事を書くというのは、これまでWebライターに見られる行為でした。
しかし、マスメディアもそういうことをしてしまっているというのが話題になる中で、「果たして何が炎上なのか」というところが2021年のテーマになってくると思います。

桑江:メディア側の責任は大きいのですが、逆に言うと企業側はメディアに取り上げられないように、もしくは取り上げられても大丈夫なように準備をしなければならないということが挙げられますね。

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