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デジタル・クライシス白書-2021年2月度-【第39回ウェビナーレポート】

公開日:2021.03.03 最終更新日:2023.06.22

パネリスト

桑江 令(くわえ りょう)

シエンプレ株式会社 主任コンサルタント 兼 シエンプレ デジタル・クライシス総合研究所 主席研究員。 デジタルクライシス対策の専門家として、NHKのテレビ番組に出演したり、出版社でのコラム、日経新聞やプレジデントへのコメント寄稿も担当。一般社団法人テレコムサービス協会 サービス倫理委員も務める。

パネリスト

前薗 利大(まえぞの としひろ)

シエンプレ デジタル・クライシス総合研究所 研究員 2011年、シエンプレ株式会社に入社。 桑江の元で多くの案件に携わり現場を経験した後、 代理店担当としてアサツー・ディ・ケイなどとの協業で、 官公庁の他、日本を代表する大企業のリスク対応を多く担当している。

公式アカウントからのDMに批判

桑江:まずは、映画雑誌に関する炎上事例です。一般女性が自身のTwitterアカウントに雑誌の感想を書き込んだところ、それを見た編集長が雑誌の公式Twitterアカウントから「死にたい」といった趣旨のダイレクトメッセージ(DM)を送信。女性は「怖過ぎる。私に『死にたい気持ちにさせて申し訳ありません』と言わせたくて送ってきたのか」とDMを晒し、雑誌側に批判が相次ぎました。

女性は雑誌を発行する会社側に相談しましたが、会社側はDMを送った編集長にも女性の個人情報を伝えてしまい、個人情報の取り扱いの危険性についても指摘がありました。
公式アカウント運営の責任者はこの編集長で、会社側も謝罪したところです。
ちなみに、編集長は女性の投稿をエゴサーチで知りました。勝手に見つけた投稿にDMを送りつけるのは、一般アカウントからでも「怖い」と思わせます。しかも、何千人ものフォロワーを抱える公式アカウントに絡まれると余計に怖さを感じるので、そのあたりが炎上に至った要因でしょう。
SNSをどのような形で運用するのか、会社としてしっかりと決めておくべきだと思います。

前薗:DMについては、相当気をつけなければいけません。内容を晒されて炎上するケースは今回だけではなく、過去の炎上事例の10%以上を占めているのではというのが自分の肌感覚です。企業側はDMの利用を禁ずるくらいの措置を取った方がいいのではないかと思います。

桑江:企業アカウントの運用でユーザーからの指摘やクレームをDM、投稿フォームに誘導するのはセオリーですが、だからと言ってDMが晒されないというわけではないということですね。
やり取りの温度感を下げていく過程において、DMで直接やり取りしてユーザー側の意見を見えないようにするというのはセオリーではあるのですが、見えないからといってよろしくない対応をすると今回のように晒されると。DMへの誘導はもちろんいいとは言え、そこでの対応は変わらず気を付けましょうということですね。

前薗:そうですね。クレームや指摘に対してならいいのですが、あくまでも沈静化が目的であって、こちらの意見を述べる場ではないということを認識した方がいいと思います。

インフルエンサー社員の自社商品PRにステマ疑惑

桑江:続いての件は、個人が運用するSNSアカウントの扱いをどうするかという話も絡んでくると思います。
大手化粧品メーカーA社に、自身のTwitterアカウントで化粧品などのPRを行っていた美容系インフルエンサーが入社。本人は入社前からA社とグループ会社、さらには同業他社の商品PRを発信していました。
この社員はTwitter上に3.5万人以上のフォロワーを抱えるほどのインフルエンサー。入社後の投稿について「A社の従業員が運営しているアカウント」との指摘があり、「ステルスマーケティング(優良誤認)ではないか」と問題視されました。
A社は当該アカウントの主が社員だとは知らなかったと釈明したものの、入社時の教育が不十分でSNS投稿の社内ルールを徹底できなかったとお詫びしました。

発信力のある人を社員として迎え入れる、もしくは自社の社員がそうしたことをしているかどうかを把握していないケースもあるかと思いますが、ステマの認識、意図はなかったとしても、今回のように発覚してしまえばこのような疑惑を持たれ、謝罪を余儀なくされるということです。
多くの企業はプライベートアカウントの利用規約などを定めていると思いますが、「自社の商品などを投稿する場合は何らかの意思表示をしましょう」、ないしは「自社に関する投稿はポジティブなものでもしないようにしましょう」といったルールをしっかりと定める必要があります。

前薗:会社は「ステマではなかった」と否定しましたが、疑いを持たれたことはテレビでも報道されてしまいました。
従業員のSNS投稿に関してマニュアル、ガイドラインを整備している企業は増えていると思いますが、それで終わりになっているケースも多いと思います。理解度の向上や履行の徹底について、改めて社内で確認することが必要です。何がステマで何がステマでないかという認識も、企業として明確にしておいた方がいいでしょう。

桑江:京都市がお笑いコンビを起用した2019年のプロモーションもステマと指摘されて炎上しましたが、法的な解釈としてはセーフだったんですよね。
「PR」の表記はありませんでしたが、それと同様の「親善大使」的な言葉を使っていたので、立場は明かしていたということになります。本来なら問題なかったはずですが、見る人によっては「PRの表記がない、広告と書いていない」と批判されてしまうということです。

今回の件も厳密に言えばステマに当たらないということになるかもしれませんが、同じように「ステマでしょう」と言われてしまう。だから法的にどうこうというより、疑惑の目が向けられそうな要素はできるだけ減らす必要があると思います。

前薗:関係性の明示ができていればいいというのが大筋の解釈だと思いますが、「PR表記がない」という形で指摘を受ける可能性があるので、より厳密に表記を入れるよう徹底した方がいいと思います。そうした認識を社内の皆さんが共有する環境を整えるのも重要です。

ジェンダーや歴史認識…敏感なテーマは避けるのが鉄則

桑江:次は、K-POPガールズグループのメンバーが軍服を着たマネキンと一緒に写ったInstagramの写真。軍服が「ナチスを連想させる」ということで、写真を見た世界各地のネットユーザーから批判が殺到しました。恐らく本人はそうした意図は全くなかったはずですが、見る人が見れば誤解を招いて批判につながってしまうという例のひとつでしょう。
実際に、日本における地図記号の「卍」がナチスのカギ十字と混同されたケースもあります。グローバルで展開する企業は、そうした認識の違いにしっかり注意しなければなりません。

前薗:日本人はあまりピンと来ないのでしょうが、ナチスに対するネガティブな歴史認識は未だに強いものがあります。海外展開においては、各国のカルチャーに合わせることが重要だということを彷彿とさせる事例かと思います。

桑江:続いては、日本オリンピック委員会会議での女性蔑視発言と謝罪会見の態度に大きな批判が殺到した件です。これに関連した政財界のトップ、重鎮の発言も批判に晒され、次々と炎上しました。
ネットやテレビなどで炎上を延焼させる動きがあったのは事実かと思います。ただ、沖縄の県紙が女性蔑視発言を受けて立ち上げた企画は「不適切だ」「行き過ぎている」と批判されて逆炎上し、中止されました。それと連動し、若手お笑い芸人が「執拗に攻撃する風潮もどうなんだ」と疑問を呈したところです。

企業アカウントが、そうした敏感なテーマに触れる必要は全くありません。触れてしまうと企業側が炎上するので、確実にスルーするということになろうかと思います。

前薗:ジェンダーに対して、中でも女性蔑視について世間一般の意識が非常に高まっているということは、企業広報やマーケティングにおいて気を付けなければいけません。ただ、そうしたテーマをいかにプラスに転じていくか、ポジティブに転換していくこともできると思うので、どう活用していくのかが重要です。逆に、誤ったメッセージを投稿、宣伝してしまうと、今までと違ってアウトということも十分あり得ると思います。
今回は「老害」というフレーズが割と出回ったので、誰が発信するかを含め、高齢者と若者の分断といった観点も気を付けていかなければならないテーマだと思っています。

ファクトチェック徹底で正しい情報発信を

桑江:次に、女性絵本作家のBさんが、ご自身のInstagramに「赤ちゃんが泣く理由で一番多いのは、ママと一緒にいたいから」と投稿し、実際に子供を育てている母親や医師から「デマだ」と批判が殺到して炎上しました。

デマのような投稿に対し、すぐに否定の声が上がるのは非常にいいとは思いますが、そもそも誤った内容の投稿はない方がいい。「デマだ」という指摘までしっかり見られていればいいのですが、SNSでは後追いの情報は見ずに、最初の投稿の内容を信じ込んでしまうケースが少なくありませんので。
企業広報で言えば、例えば「異物混入があった」と投稿されたとき、その後にメーカー側や団参者が否定しても、最初の「異物混入があった」という投稿しか目にしなかったという方もいます。そのため、デマに反応した人に対していかにスピーディーにリーチできるかもポイントになります。

前薗:「AはBだ」という発表を企業がする際、事実が検証されないまま炎上してしまうケースも多くありますので、「実はこうなんだ」ということを反論できるように用意した上でリリースを打つとかSNSを更新していくことが重要だと思います。
実際、Bさんは反論が難しいと思うんですよね、医師から「デマだ」と言われてしまっているので。反証できないことを書いてしまうと、炎上を受け止めざるを得なくなります。企業はそうなるわけにいかないでしょうから、発信する内容が事実かどうかというチェックは重要です。

桑江:それに関連するのが、ジャーナリストのCさんの件ですね。テレビ番組の中で、米国の前大統領をめぐり「人権問題に関心がなかった」といった発言をしました。しかし、実際にはウイグル問題をジェノサイド(民族大量虐殺)と認定したり、数年前の演説で北朝鮮問題に触れたりした実績があります。Cさんの発言は事実誤認と批判され、本人も謝罪に追い込まれました。
テレビと違い、企業は事前にしっかりとファクトチェックをする時間があると思いますので、入念に確かめた上で正しいことを発信していきましょう。

前薗:テレビ番組などを見ていると、前大統領はイメージだけで批評されているケースが結構多いですよね。

インフルエンサーの起用は慎重に!

桑江:続いての炎上事例は、芸能人のDさんが自身のYouTubeチャンネルにアップした「愛犬を里子に出す」という動画。ペットロスで落ち込んでいた知人に自身の愛犬を譲り渡したということですが、「犬は物じゃない」「わざわざ動画にするのはどうなんだ」といった批判が出たところです。ファンの間では、Dさんが過去に公開した数々のペットについて「いつの間にか見なくなった」という疑惑も生まれ、イメージダウンを招きました。

前薗:ペット、ファンがいるコミュニティーに関し、企業が投稿するのはリスクがあるので気を付けた方がいいでしょう。

桑江:どちらかと言うと、Dさんはネット上の人気が高いのですが、ペットのように炎上につながりやすいテーマを扱ってしまうと、このような形になるということですね。

前薗:もうひとつ、女性ユーチューバーのEさんの炎上事案を紹介します。発端は、自身のInstagramのストーリーズにアップした「9カ月間ゼロ円で通えます」という脱毛サロンの広告でした。
本来は、通い終えてからショッピングローンでその間の費用を支払う仕組みですが、その説明がなく、「有利誤認ではないか」「広告表現に誤りがある」と指摘されて炎上しました。
その後、他のユーチューバーの方々が本件を取り上げ、そのうちの何本かに出演したEさんは態度の悪さを批判された上、過去の豊胸疑惑なども再燃し、YouTubeでの炎上が続いたところです。

インフルエンサーとかユーチューバー、ティックトッカーなど、芸能人でもなく一般人でもない方々にプロモーション活動の仕事を依頼するケースが増えています。
こうした方々に依頼をする際は、どういったリスクがあるのかということを念頭に置いていかないといけないでしょう。
Eさんの場合、自身の態度や過去の炎上に引っ張られ、すぐに沈静化するはずだった問題がそうならないという状況になってしまっています。
会社によっては広告代理店にまとめて発注しているケースもあると思いますが、どういった方々に依頼するかというところまでがクライアント側の企業の責任になっていきますので、注意してチェックする必要があると思います。

桑江:次の事例は、有名な女性起業家のFさんが立ち上げたサプリメント商品に関してです。著名な医療系アカウントを運営する方が、この商品を紹介したホームページの記述などに疑問を呈しました。Fさん自身は真摯に対応しているように見えるものの、その中身が不十分という批判が出ているところです。
サプリビジネスが医療系アカウントなどで否定的に捉えられ、批判される例はこれまでにもありました。影響力のある方が効能効果を宣伝するというのが危惧されているところで、薬機法の範囲内で表現をすべきといったことが指摘されています。サプリビジネスには、そうしたリスクがあるということを覚えておいていただければと思います。

前薗:サプリ関連は年1回くらい、必ず炎上しますよね。最近は機能性表示食品なども増えていますから、そうしたものを取り扱っている企業は、こうした炎上を参考としていただく必要があると思います。今回は有名人が出ているので目立っていますが、水面下で個別のサプリが否定されるケースは何度も確認しています。

Clubhouseの炎上リスクも顕在化

桑江:最後になりますが、Clubhouseをめぐり、お笑い芸人Gさんの絡みでトラブルがありました。経緯などに関しては次回、改めてお話しできればと思いますが、Clubhouseとしてここまで炎上が大きくなった事例は初めてだと思います。Clubhouseの炎上の先行事例になるのではないかというところですね。

前薗:Clubhouseの炎上はまだまだ「型」が見えません。企業が知らないところで炎上してしまうことも考えられるので、我々も動向などはしっかりと見ていきたいと思います。

桑江:Clubhouseには「そこで話したことを明らかにしてはいけない」という規約はあるものの、本件に関してもYouTubeに録音データが上がっていますし、以前は女性芸能人のClubhouse上での発言が週刊誌に掲載されました。
そこに参加をした人たちのキャプチャーが出てきてしまったケースもありますので、企業にとってはそういった場に社員が参加しているということだけでもリスクになる可能性があるということです。
もちろん、その辺りはClubhouse側も変更していく可能性がありますが、現状はそういったリスクがあるということを認識しなければいけないと思います。

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