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ネスレ日本におけるアクティブサポートの現状【第49回ウェビナーレポート】

公開日:2021.05.26 最終更新日:2023.06.20

パネリスト

桑江 令(くわえ りょう)

シエンプレ株式会社 主任コンサルタント 兼 シエンプレ デジタル・クライシス総合研究所 主席研究員。 デジタルクライシス対策の専門家として、NHKのテレビ番組に出演したり、出版社でのコラム、日経新聞やプレジデントへのコメント寄稿も担当。一般社団法人テレコムサービス協会 サービス倫理委員も務める。

ゲストパネリスト

田代 武志(たしろ たけし)氏

ネスレ日本株式会社 コンシューマーリレーションズ部 VOC & SNS マーケティングサービスユニット ユニットマネージャー。 1991年ネッスル株式会社(現ネスレ日本株式会社)入社。大阪支店 神戸営業所にて営業担当を皮切りに、マーケティングリサーチ、麦芽飲料やチョコレート等のブランド担当を経て2013年より現職。 SNSを通した消費者対応と、VOC(Voice of Consumer 消費者の声)の分析・フィードバックを担当。

「お困りですか?」 問い合わせが来る前にアプローチ

桑江:アクティブサポートとは、ユーザーが自社のカスタマーサービスに問い合わせるのを待つのではなく、サービスの運営側がユーザーの不満や問題を発見し、積極的にサポートしていく手法を指します。
最も分かりやすい例はSNS、特にTwitterなどでエゴサーチを行い、自社の商品やサービスへの不満や意見、疑問を述べているユーザーを見つけ出してアプローチするというもの。独り言のような形で投稿している方をサポートするのが特徴です。

田代:お客様から問い合わせが来る前に問題を解決するアクティブサポートこそ、究極のカスタマーサポートだと考えています。
昨今の問い合わせは電話が減ってテキストベースになってきていますし、企業にコンタクトを取る前にTwitterに上げてしまうケースも増えています。
また、アクティブサポートの副次的な効果としては、SNSを介してコンタクトを取ったお客様とエンゲージメントを築くことで、企業の評価向上に貢献できます。
さらに、自社に関するツイートを探すソーシャルリスニングを通じ、お客様からの連絡を待っているだけでは分からないユーザーのインサイトを把握できます。

桑江:積極的かつ、こまめなサポート提案で日頃から顧客満足度を高めておくことで、有事の際の大きな炎上リスクを軽減できる狙いもありますね。
最近は企業の対応などに問題があると、ネット上の不満を集めたブログやまとめサイトがすぐに作られてしまいます。そうなると、悪い評判があっという間に拡散されてしまいますから。

田代:機器の不具合など電話では説明しにくいことでも、SNSなら写真を送っていただけるメリットもあると実感しています。
ただし、こちらから話しかけたのに問題を解決できなかった場合、お客様は逆に怒ってしまうかもしれません。だから、確実に対処できることに絞って接触している状況です。

個別ブランドからの発信でファン、売上が増加

桑江:イレギュラーな対応は電話やメール、DM(ダイレクトメッセージ)で直接やり取りすることも大切ですね。

田代:お客様とのエンゲージを築くため、お困り事を解決する以外にも、リピーターの方々などに「お礼」のような形で話し掛けることがあり、結構喜んでいただけています。
一方、そのようなアプローチをする場合は、カスタマー対応窓口であるネスレVOCセンターではなく、それぞれのお客様がファンになってくださっている個別の商品ブランドのアカウントから発信する方が喜ばれるだろうという考えもありました。
「ネスカフェやキットカットは私たちのことを分かってくれている」と思ってもらえるのではないかということで、ブランドのアカウントによるお客様対応も始めたところです。

桑江:携帯電話の大手キャリア3社も、サポート用のアカウントを作って運用していますね。相手に合わせて適度に顔文字などを交え、親しみやすさを演出するといった工夫も凝らしています。

田代:我々もブランドアカウントごとにトーン&マナーを変えるようにしました。例えば、キットカットのキャラクターは明るくて面白いイメージがあるので、ネスレVOCセンターからの発信では使わないアスキーアートや絵文字を使っています。
反対に、ネスカフェのブランドカラーは「真面目さ」なので、キットカットよりフォーマルな雰囲気で話し掛けるなど運用を変えて投稿しているというわけです。
Twitterのメッセージは若い世代の方々に「面白い」と喜んでいただいていますし、「話し掛けられたから買ったよ」と言っていただくこともあります。
ブランドのファンになっていただき、商品の購入にもつなげられる仕事は非常にやりがいがありますね。

桑江:なるほど。

投稿ごとのエンゲージメント率などをKPIで評価

田代:その半面、各ブランドのチームと齟齬が発生しないよう、KPI(重要業績評価指標)を使って定期的に顧客対応の状況を確認し、ネガティブな声も包み隠さず共有しています。
お客様が独自に編み出した商品のユニークな使い方など、ソーシャルリスニングで発掘したさまざまなアイデアをマーケティング活動のヒントとしてブランドチームに提供することも心掛けています。

桑江:どのようなKPIを設定されているのでしょうか。

田代:一番はエンゲージメント率ですね。投稿ごとにURLのクリックやリツイートの数などの目標を設定しているので、「この投稿はどうだったか」を追いかけ、次のアクティビティーに活かしているところです。フォロワー数を増やすための指標も設定しています。

桑江:投稿から何日間が経過した時点でその投稿を評価していますか。KPIの確定タイミングをお聞かせください。

田代:今は月締めで評価しています。ただし、月末に始まるキャンペーンに関しては対象期間が終わってから、エンゲージメント率などを起算する形ですね。一般投稿を含めたマーケティングチームのレビューは月末で締め、まとめて報告する流れになっています。

桑江:自社の投稿は、どのようなフローで何次チェックまでされていますか。

田代:ネスレVOCセンターのアカウントからの発信は、スーパーバイザーによる1次チェックのみです。
一方、新しいブランドのアカウントで発信を始める際は、ブランドの担当者やマネージャーなどもトーン&マナーなどをチェックします。日々の投稿が軌道に乗るまではブランド側にドラフトを提出し、承認されたものにVOCセンターのスーパーバイザーが目を通す仕組みです。
とは言え、いつまでもこれだと時間が掛かるので、キットカットのように「もう任せるよ」となればVOCセンターの中だけで完結するようにしています。

桑江:ブランドチームとのミーティングは、どのくらいの頻度で開いているのですか。

田代:チョコレート製品などはツイート数が多いのでウイークリーですが、ほとんどがマンスリーですね。

炎上リスクにも備えて応対フローを策定

桑江:炎上リスクには、どのような対応で備えていますか。

田代:炎上に備える体制は築いています。ネガティブな投稿に対しては定量と定性の軸を組み合わせた基準を適用し、何点以上になるとブランドチームに報告する、役員に上げるという形を取っています。誰が携わっても分かりやすく、同じ対応ができるようなフローを作って評価しているということです。
記者会見を開くのか、Webサイトで説明すべきかの基準はエスカレーションとは別に設定していて、拡散・炎上の状況に沿ったアクションをあらかじめ決めて社内で共有しています。
SNSのクライシスを想定したトレーニングも2014年から年数回実施し、コンプライアンス違反やポリティカル・コレクトネス関連など最新のネット炎上傾向も常に把握するよう心掛けています。

桑江:緊急時の意思決定プロセスを教えてください。

田代:エスカレーションフローのクリティカル度が高くなると、私どもとお客様相談室、広報、さらに案件によっては法務部、人事部、そしてCMO(最高マーケディング責任者)が集まります。
基本的にはそれらのメンバーが1日2回でも3回でも随時クイックでミーティングをし、最終的な意思決定はCMOが行うという形ですね。

桑江:アクティブサポートを受けられなかった投稿者が不満を暴露し、炎上することはないのでしょうか。

田代:不公平感があればSNS上で見えてしまうので、「なぜ私はサポートされないのか」ということになります。だから、同じ問題を抱えている方が多数いらっしゃる中で、一部の方だけをサポートするのは避けなければなりません。
例えば「機器の部品が壊れた」という投稿に対し「代品を送ります」と応じた場合、「私もお願いします」という人が続出する可能性があります。もちろん、全員に対応できるなら窓口を設けてそうしますが、そうでなければやり取りが表に出るようなメディアを通じての対応はしません。

パッシブ⇒リプライ⇒新規応対の順に

桑江:アクティブサポートを推進する上での注意点はありますか。

田代:話し掛けて不快に思われないか、実際に案内できることやお役に立てることがあるかということです。忘れがちですが、我々が話し掛けた後、その問題が自己解決されていないかも確認しながら投稿しています。
また、いろいろお聞きした挙げ句に「その条件では修理、交換できません」となると怒られてしまうでしょう。だから、それらの条件は事前にチェックしています。
投稿ルールに沿い、よそよそしくなく、なれなれしくもない文章を作ることも重要です。「友達の友達」に話し掛ける程度のトーンを心掛け、基本的にはテンプレートも使いません。
前後のツイートを確認しながら相手がどういう方なのかを把握し、①パッシブ②リプライ③新規応対の対応順を守っています。
属人的な運用をせず、アクティブセールスにならないようにすることも大事ですね。

桑江:アクティブサポートの成功例、あるいは失敗例はありますか。

田代:売上プラスになった成功例は結構あります。例えば、ダルビッシュ有投手が弊社のコーヒー製品を誤って大量に購入したというツイートを投稿した際、すぐにリプライしたのですが、そのときはバズった形になって商品のセールスが急増しました。
アクティブサポートをしていなければ見過ごしていたものが、応対することで購買につながり、ファンになっていただける人も増えるのはやりがいがあります。
半面、話し掛けられたのを嫌がり、アカウントを閉鎖してしまう方もいらっしゃいます。突然のアプローチを気持ち悪がられる場合もありますが、そうした失敗例は次の事前チェックに活かすようにしています。

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