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目指すは広告費0円 ワークマンのアンバサダー・マーケティング戦略【第51回ウェビナーレポート】

公開日:2021.06.09 最終更新日:2023.06.20

パネリスト

桑江 令(くわえ りょう)

シエンプレ株式会社 主任コンサルタント 兼 シエンプレ デジタル・クライシス総合研究所 主席研究員。 デジタルクライシス対策の専門家として、NHKのテレビ番組に出演したり、出版社でのコラム、日経新聞やプレジデントへのコメント寄稿も担当。一般社団法人テレコムサービス協会 サービス倫理委員も務める。

ゲストパネリスト

林 知幸(はやし ともゆき)氏

株式会社ワークマン 営業企画部兼広報部 部長。 1973年生まれ。岐阜県岐阜市出身。大学卒業後、1996年にワークマン入社。スーパーバイズ部、開発部を経て2020年4月より現職。 2018年のワークマンプラスの立ち上げや、多くのメディアに取り上げられ話題となった「過酷ファッションショー」の企画や演出に携わった。 現在ではSNS等のオウンドメディアやアンバサダープロジェクトなどのマーケティング戦略や広報・PR戦略を担当している。

アンバサダーに求めるのは自社への「熱量」

桑江:さまざまな企業が「インフルエンサー」、そして「アンバサダー」を活用したプロモーションを展開しています。
両者の違いを説明すると、インフルエンサーは他ユーザーの購買行動に対する強い影響力が求められるのに対し、アンバサダーは「熱量(どれだけ自社のサービスや商品が好きか)」が重視されますね。

林:なぜ我々がアンバサダー・マーケティングをしているかと言うと、一番の目標は客層拡大です。職人さんの数も減る中、このまま作業服ばかり売っていると業績が頭打ちになることは分かっていました。
そこで、プロが認める機能性を別の方々にも使っていただきたいと考えたのですが、実は「ワークマン」「ワークマンプラス」「ワークマン女子」は、同じ製品の見せ方を変えて売っているのが特徴です。
そうした方法で新しい業態に進出した取り組みの1つに、従来とは違う客層に製品情報を発信するアンバサダー・マーケティングがあります。
つまり、客層を拡大するために、別の分野でもファンを獲得しながら新業態を創っていきましょうというのがワークマンの戦略です。

桑江:ワークマンさんには2021年2月、私たちが企画した「第1回JDMアワード(ジャパン・デジタル・コミュニケーション・アワード)」の優秀賞を贈らせていただきました。2020年は「#ワークマン女子」が大反響でしたね。

製品開発への参画と情報拡散に期待

林:ワークマンのアンバサダー・マーケティングの定義は「ユーザーイノベーション(製品開発への参画)」「デジタルコミュニケーション(製品情報の拡散)」で、とりわけ製品の共同開発が非常に大きな部分になります。
アンバサダー・マーケティングを始めるきっかけになったのはSNSでした。2014年頃、「ワークマンのレインウェアの作業服はバイクウェアにちょうど良い」という消費者の声がブログに書き込まれ、「ワークマンの製品はいろいろなことに使える」というありがたい情報がSNSで広がったのです。
そこで、その作業服をもう少しライダー寄りの目線で進化させられないかと考え、消費者の声を聞いて製品を開発しようということになりました。それがアンバサダー・マーケティングで言うユーザーイノベーションです。

桑江:ワークマンさんのアンバサダー・マーケティングは、アンバサダーとの金銭のやり取りは一切ありませんね。それにも関わらず注目を集め、実際に日本各地でブームが到来し、さまざまなメディアにも取り上げられています。

林:アンバサダーは、ワークマンの製品の熱いファンであることが前提になります。趣味や仕事でワークマンの製品を常に使い続けていただいている方が対象です。
一方で、アンバサダーと共同開発した製品が何万点売れても報酬は一切支払っていません。無償です。

広告費0円のマーケティングを可能にするWin-Winの関係

林:近年は企業の一方的なコマーシャルや販売促進活動より、SNSでの評価が最も購買につながると認識しています。コストを掛けなくても皆さんに評価していただき、自然にレピュテーションが広がっていくのが我々にとっての利点ですね。
アンバサダーには、真っ先に商品情報を提供します。例えば、共同開発していない製品に関しても「こういう製品を作りつつあって、いつ頃までに発売します。よろしければ、この時期から紹介していただいて結構です」という情報を最初に流すようにしています。
アンバサダーがいち早く情報を発信できればフォロワーに喜ばれますし、アンバサダー本人にもエンゲージメントが上がったり、YouTubeで言えば視聴回数が増えたりするメリットがあります。それによってフォロワーが増えれば、アンバサダーの広告収入も増えるというわけです。
また、アンバサダーにはさらに有名になってもらいたいということで、ワークマンにテレビ番組などメディアの取材依頼があれば、関係するアンバサダーも必ずご紹介させていただくようにしています。

桑江:アンバサダーは何人くらいいらっしゃるのですか。

林:現時点では40人くらいに製品開発か情報拡散、あるいはその両方を担っていただいていて、将来的には50人程度にしていきたいと思っています。
アンバサダー・マーケティングで一番大事にしているのは、いかにこまめにアンバサダーとコミュニケーションを取るかということです。
アンバサダーには製品の勉強会やイベントにも参加していただきますし、ワークマンの取り組みやビジョンを共有してもらうことでアンバサダーが炎上してしまいそうな投稿をゼロにするようにしています。

ブログやYouTubeのエゴサーチで適任者を発掘

桑江:アンバサダーは、どのように選考されているのでしょう。

林:基本的に目視で見つけているので、ホームページやSNSでの募集はしていません。ワークマンのファンであるというだけでなく、真っ先にワークマンの製品を取り上げてくれる人、あるいは製品に対して「もうちょっとこうなったら使いやすいのにな」ということをSNSなどで発信してくれる人ですね。
あとはエクストリームユーザー。「この製品はこういうことに使えました」「こういうときに使うと便利でした」というニッチな情報は非常にありがたいので、そういった話題を発信していただける方々は我々の目に留まりやすいですね。

桑江:なるほど。

林:我々だけではなく、製品開発の担当者も「自社製品がどういう使われ方をしているか」「どんな評判なのか」というのをエゴサーチしています。
特によく見ているのはブログやYouTubeです。ワークマンの製品の特徴は高機能で低価格ですが、それらを言葉で説明すると比較的長尺になるので、アップロードの容量制限のないメディアの方が相応しいと考えています。
そこで「この人がいい」となればSNSでダイレクトメールなどを送ってアポイントメントを取りますが、我々と気が合ったからといってすぐに任命するわけではありません。
その方が「どういう方か」「なぜワークマンの製品が好きなのか」「どういうシーンで使っているのか」、あとは「ワークマンに足りないものは何だと考えているか」ということについてよくコミュニケーションを取り、大体2、3カ月かけて正式に依頼しています。

フォロワーの声を代表するアンバサダー

桑江:個々のアンバサダーのフォロワー数は、さほど多くなくても構わないということでしょうか。

林:アンバサダーは、ご自身のフォロワーと情報交換ができていることが重要だと考えています。我々のアンバサダー・マーケティングの第1の目的はユーザーイノベーション、製品開発ですので、「アンバサダーがフォロワーの声を代表してワークマンに意見を持ってくる」という意味合いで捉えています。
我々が求めているのは、アンバサダーの意見がフォロワーの意見と感じられるほどフォロワーとの情報交換がよくできている方。あとは比較的真っ先にワークマンの製品をお買い求めいただけているアーリーアダプターの方ですね。
だから、インフルエンサーでなくても大丈夫です。アンバサダーの中にはフォロワーが100人くらいしかいない方もいらっしゃいます。フォロワー数の多寡に関係なく、ワークマンの製品が好きで「ワークマンの製品にもっとこうなってもらいたい」という思いがある方にアンバサダーになっていただいています。

桑江:そうなんですか。

林:アンバサダーが人気になることでワークマンの製品を紹介したときの影響力を少しでも上げていきたいという思いから、昨年秋から冬にかけてアンバサダーにCMに出ていただきました。製品そのものではなく、一緒に製品開発をした方々を紹介したんですよ。
アンバサダーが有名になることで、消費者がより共感できるコンテンツをリアルに広げることを目指した取り組みで、非常に大きな反響がありました。
KPI(重要業績評価指標)/KGI(重要目標達成指標)には、ワークマン関連コンテンツのページビュー数やコメント数などを設定していますが、最終ゴールは売上ではありません。「#ワークマン」「#ワークマン女子」というUGC(ユーザー生成コンテンツ)です。
UGCが増えればインフルエンサーに負けないくらいの評判の蓄積につながるので、販促費を掛けず製品を売り切るという理想形に徐々に近づいています。

目指すのはインフルエンサー並みの影響力

桑江:インフルエンサーは、あえて使わないということですね。

林:アンバサダーがより消費者目線のコンテンツを作っていくことにより、まだワークマンのファンではない方々を熱いファンにしていき、アンバサダー候補にもなっていただきたいと思っています。
アンバサダー自身をインフルエンサー並みの発信力を持つ存在に近づけていけば、1つの製品を優れた消費者目線で紹介してもらえて、かなり拡散されるようにもなるでしょう。ワークマンとしては、アンバサダーをより影響力のあるレベルに押し上げていきたいというのが最終目標です。

桑江:アンバサダー・マーケティングのさらなる進化が期待されるところです。製品の共同開発を進める上で、従業員とアンバサダーの意識の違いなどはありますか。

林:ワークマンの従業員には作業服の知見はあるのですが、それ以外は全くないんです。例えば、キャンプで使える製品をアンバサダーと共同開発した際、我々が絶対に必要だと思い込んでいたポケットやペンケースなどは「一切いらない」と言われました。先入観やしがらみのない斬新な意見は、本当にありがたいですね。

桑江:外部の方をアンバサダーとして起用する場合、社内規約へのサインや研修などのリスクヘッジはされていますか。

林:サインは頂いていますね。あとは研修というわけではないのですが、製品に関する勉強会やイベントにお招きし、さまざまな製品開発の責任者といろいろなお話をしていただく過程で徐々に啓蒙を図るような取り組みを重ねています。
中には、ワークマンの製品を使った過激なコンテンツを思いつくアンバサダーもいらっしゃいますが、投稿をする前にワークマンと一度相談しましょうということにしています。

桑江:アンバサダーの選定に当たり、「この候補者にはワークマン愛を感じる」と判断される理由は何でしょうか。

林:店頭やチラシ、カタログで伝え切れない機能を見つけ出した方が何人か存在するのですが、例えば「その隠しポケットを発見したとは、どれだけ製品を研究しているのか」と驚かされたのが決め手になったケースが一番多いです。あとは、一般の方とは違う使い方をされている場合ですね。そういった方々をとても歓迎しています。

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