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メディアでジェンダーをどう扱う?トイアンナが解説「ウケるコンテンツの作り方」【第53回ウェビナーレポート】

公開日:2021.06.23 最終更新日:2023.06.20

パネリスト

桑江 令(くわえ りょう)

シエンプレ株式会社 主任コンサルタント 兼 シエンプレ デジタル・クライシス総合研究所 主席研究員。 デジタルクライシス対策の専門家として、NHKのテレビ番組に出演したり、出版社でのコラム、日経新聞やプレジデントへのコメント寄稿も担当。一般社団法人テレコムサービス協会 サービス倫理委員も務める。

ゲストパネリスト

トイアンナ氏

ライター、起業家。 慶應義塾大学卒業後、P&Gジャパン、LVMHグループ等のマーケターを経て独立。 現在は短期集中型オンライン・ビジネススクール「スキルブートキャンプ」を運営しつつ恋愛、結婚、ジェンダーに関する記事を多数執筆。 最新記事に現代ビジネス『日本の被差別階級「弱者男性」の知られざる衝撃実態…男同士でケアすればいいのか』など。

炎上の原因は本当に「ジェンダー」か?

桑江:ここ1年くらいですが、これほどまでにジェンダー炎上のリスクが高まっているのはなぜなのでしょうか。

トイ:女性がなぜここまで活躍せざるを得ない社会になったかと言うと、ひとえに日本が貧乏になったからです。もう1つの要因は少子化が進み過ぎたこと。今さら子どもが生まれても、労働力になるまでには20年くらいかかるので、もう間に合わないと。この国は女性が働かなければ移民を受け入れるしかないという状況に陥ってしまったことが大きいでしょう。
海外でも、リベラルな考え方が広まったからジェンダー平等が叫ばれたわけではありません。ジェンダー先進国はイギリスですが、総力戦となった第一次世界大戦下で女性の社会参加が活発にならざるを得なかった面があります。ジェンダー平等は、実利に駆られた理念だからこそ浸透してきたのだと思いますね。

桑江:なるほど。

トイ:ジェンダーに関する広告は、些細なことでも炎上しやすいと考えている人が多いのではないでしょうか。一方、本当にフェミニズムを扱ったことが炎上の原因なのか、理由を検証する必要があるのも確かです。

消費者の隠れた本音「インサイト」を見つける

桑江:具体的に、どういうことでしょうか。

トイ:例えば、事業会社にマーケターがいるとすると、その人は消費者の気持ちを精査して本音に応えるようなものを作るのが使命です。そうして本音を掘り出せたCMは良いクリエイティブになるはずです。
マーケティング用語では、隠された本音を「インサイト」と言います。消費者はインサイトを刺されないと商品・サービスを購入しませんが、隠したい本音を刺され過ぎると怒ります。インサイトを見つけることはとても大事で、そのために消費者のヒアリングをすることも必要ですが、コミュニケーションに落とし込むとき、広告やPRにするときは、たっぷりのオブラートにくるんで表現しなければなりません。

桑江:テーマそのものではなく、マーケティングやコミュニケーションの手法に起因して炎上する場合があるということですね。

既存顧客はそのままに新規層も狙う「コア&モア」

トイ:これまであまり公開されてこなかったマーケティングの概念に「コア&モア」があります。既存顧客を維持したまま新規顧客を獲得しましょうという、いいところ取りのプロモーションですが、これが非常に難しいのです。
なぜなら、少しでもコアを裏切るようなことをすると「このブランドはもう自分向けではないので嫌い」と言い出す人が続出するからです。ターゲットを変えるのは賭けに近く、非常にリスキーなので、今までの属性と真逆のターゲット向けのプロモーションはうっかりでも絶対に打ってはいけません。

桑江:コア&モア戦略は、既存顧客の見えないところで展開すべきだと。

「RTB」のある広告が受け入れられる

トイ:さらに、消費者は商品・サービスをアピールされたとき、それを信じられる理由(Reason to Believe=RTB)がなければ絶対に選びません。コミュニケーションのコンテンツを作るときは、なぜそれが信じるに足るのかを説明する言葉を常に添えなければなりません。

桑江:RTBをないがしろにすると不信感を招き、炎上することがあるのですね。

ジェンダーを扱ったから炎上するわけではない

トイ:ここまで3つのマーケティング用語を紹介しましたが、女性が怖い、ジェンダーが怖いのではなく、すべての消費者は怖い存在なのです。だから、消費者を裏切るようなコミュニケーションを取ってしまうと、すぐに炎上します。
ただ、最近は炎上という言葉が安易に使われ過ぎている印象も持っています。例えば、ある広告に対する賛否が五分五分だったとしても、賛同する側が非常に熱烈なファン意識を抱いてサービスや製品を大量に購入してくれた場合、「炎上した」と言うべきでしょうか。
むしろ「ターゲティングがうまくいき、自社が刺すべき相手にきちんとコミュニケーションを伝えることができた」「売り上げを伸ばすことに貢献した」と結論付けることが可能ではないかと思います。
ジェンダーとは関係なく、少しでも批判が出たら炎上と定義することはやめておいた方が企業にとってヘルシーだと思います。

桑江:自社で許容できる炎上の定義を決めておくことが必要ですよね。

トイ:1つでもクレームがあったらだめというのは何かのコミュニケーションをする上で不可能ですし、仮に作れたとしても誰も惹きつけないでしょう。みんなに好かれる広告を目指さない、むしろ誰を切り捨てるかを決め、何割の批判までは許すというところで合意してからでないと、あらゆる広告・PR戦略は打ってはいけないのではないかと考えています。

桑江:それを踏まえ、広告を作る上で気を付けるべきことはありますか。

トイ:マーケティングのエッセンスを何度も復習することを勧めます。「自分は消費者のことを分かっている」「広告作りはベテランだ」「企画作りに慣れてきた」と思うタイミングが一番危ないんです。
何度も復習したり新しい事例を知っておいたりすることが、私たちの身を守るためのエッセンスになってくれると思います。例えばコア&モアを知っていても、それがなぜ重要で、失敗すると何が起きるのかは、何度も反復しなければつい忘れてミスをしてしまいがちです。だから、実践と理論を何度も学習することが非常に重要だと思っています。

広告よりPR戦略を重視 消費者に「ウケるか」の数値化も必要

桑江:「いかにも感」を出さずに、男性にも女性にも受け入れてもらえる広告を発信しようとする場合、どのようなことを意識すべきでしょうか。

トイ:ジェンダー関係で広告を作りましょう、発信しましょうというとき、私が勧めるのは広告よりPR戦略を取るということです。「ジェンダーに気を遣っています」と言うとわざとらしく、大抵はRTBもなさそうに見えてしまいます。だから、商品・サービスはさらりと告知するだけで何もしないのが得策です。
その上で、PRの媒体に「こういうSNS戦略を実践している先進的な企業としてうちを扱ってもらえませんか」と売り込めば、第三者が認めるRTBが入ってくるので炎上しにくいですし、むしろ売り上げの伸びにつながるだろうと思います。

桑江:クリエイティブの意思決定も重要になりますね。

トイ:意思決定組織は女性の比率を上げるだけでなく、さまざまな観点を持つ女性が複数いる状態にすることが大事だと思います。日本人の中位年齢は48.9歳(2020年)ですが、その世代と20代、30代が許容するジェンダーのラインは全然違います。
40代後半の世代は許容できても20代、30代が到底受け入れられないものであれば炎上してしまいます。これは20代、30代に物を売りたければ絶対にやってはいけませんよね。
それをどう防ぐかを考えると、消費者調査しかないと思いますね。決裁者が「いいね」と言ったものをそのまま出すのではなく、消費者テストを通してウケるかどうかをきちんとしたスコアで出すしかないでしょう。
消費者のうち何%以上が「良いCMだ」「購買意欲が上がった」と感じたかを把握し、決裁者がそれらの意見を優先した判断を下すよう意識することしかできないと思います。
クリエイターがいかにジェンダーレスのクリエイティブを制作しても、決裁者が「ノー」と言えば通らないので、決裁者がどうトレーニングを受けるかも非常に大事なポイントです。

桑江:まとめになりますが、何がどうなれば、男女差別のない社会が形成されると思いますか。

トイ:個人的な意見ですが、賃金差別をなくすのが一番大きいと思います。女性がお金を稼げなければ男性の年収に頼らざるを得ず、家庭内でモラハラを受けていても離婚できないケースが出てきます。あるいは女性1人では自活できないから結婚せざるを得ないというように、結婚の動機が経済になってしまう現象もまだ起きています。
私も経営者になった以上、賃金の格差是正は自分が社内でやらなければいけないことです。能力主義で査定していく必要が出てきていると感じていますが、そうした取り組みが男女差別撤廃の始まりの1つになるのではないかと感じています。

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