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チロルチョコ松尾社長が語る「SNSコミュニケーション」【第55回ウェビナーレポート】

公開日:2021.07.07 最終更新日:2023.06.20

パネリスト

桑江 令(くわえ りょう)

シエンプレ株式会社 主任コンサルタント 兼 シエンプレ デジタル・クライシス総合研究所 主席研究員。 デジタルクライシス対策の専門家として、NHKのテレビ番組に出演したり、出版社でのコラム、日経新聞やプレジデントへのコメント寄稿も担当。一般社団法人テレコムサービス協会 サービス倫理委員も務める。

ゲストパネリスト

松尾 裕二(まつお ゆうじ)氏

チロルチョコ株式会社 代表取締役社長。 1986年福岡県生まれ。2009年に立教大学経済学部経済学科を卒業し、同年コンサルティング会社に入社。 2011年にチロルチョコ株式会社に入社。各部署研修後、販売・開発・製造の部長を経て、2017年5月より現職。

菓子メーカーがつながったコラボ企画を発案

桑江:企業のSNSアカウントではユーザーが簡単に参加でき、目的やターゲット層が明確な企画が好評を博しています。また、他社とのコラボ企画やユーザーとのコミュニケーションが活発なアカウントも人気です。
2020年は新型コロナウイルスの感染拡大に伴う外出自粛が続いた中、菓子メーカーによる企画「#おかしつなぎ」が話題になりました。ご自身が発案したキャンペーンとして4月15日に始まり、多くのメーカーも協賛して企業の壁を超えた「お菓子の輪」が広がりましたね。

出典: https://twitter.com/TIROL_jp/status/1250259618460135425

松尾:当時は日本全体が何となくどんよりしていたというか、見聞きしたのはネガティブな話ばかりでした。気持ちが晴れなかった中、ある週末に「こういうときこそ、お菓子が役に立つのではないか」と思ったのです。
「楽しいお菓子で世の中を明るく」という考え方や「あなたを笑顔にする」というミッションを掲げている会社として、「少しでいいからお客さんに笑顔を届けられないか」と考えました。「チョコレートをもらって嫌がる人はいないだろう」という感覚から始まったキャンペーンでしたね。
私どものアカウントは17、18万人ほどのフォロワーがいましたが、その方々だけに届けるのでは広がりが小さいと思い、仲の良い経営者に声を掛けたのがコラボのきっかけです。

桑江:「#おかしつなぎ」は、シエンプレが表彰した「第1回ジャパン・デジタル・コミュニケーション・アワード」(JDCアワード)のボーダーレス賞にも輝きました。企画に対しては、多くのユーザーからも喜びの声が寄せられましたが、あれほどの反響があったことへの感想をお聞かせください。

松尾:最初は5社くらいで「さざ波でも起こせたら」と考えていたのですが、いつの間にか大波になり、最終的に70社ほどに広がりました。妄想はしていたものの、本当にそうなるとは思っていなかったのでうれしかったですし、シンプルに驚きましたね。

桑江:菓子業界全体に波及する大きな動きで、コロナ禍の中で明るいデジタル・コミュニケーションだったと思います。振り返ってみて、特に印象に残っているエピソードはありますか。

松尾:キャンペーンの序盤で大手さんにも参加していただけたことですね。私たちのような中小企業とは違い、大企業が「明日からキャンペーンをやりましょう」と決定するのは難しいとイメージしていましたが、かなり早い段階で協賛してくれたことで情報の拡散力がさらに強まり、うれしかった記憶があります。

自社のファンとの距離を近づけられるSNS

桑江:それだけ大きなムーブメントになったことを踏まえ、今後に活かせそうな取り組みはありますか。

松尾:企業側は「フォロワーや売り上げを増やしたいからSNSを使っている」というのが本音でしょうが、「#おかしつなぎ」は「みんなが笑顔になってくれたらうれしい」というシンプルな思いが強く、ビジネス感が少なかったことが良かったのだと感じています。
ビジネスの視点はもちろん必要ですが、たまには損得勘定抜きで展開する企画があってもいいのかなと思いますね。

桑江:これまでのSNS運用を通じた成功例や「こういうことができたから良かった」と感じることはありますか。

松尾:SNSはホームページではできない双方向のコミュニケーションを求めて始めたのですが、2020年春から専任の運用担当者をつけたことでファンとの距離が近づきました。
今はLINEスタンプを作ろうと考えているのですが、お客さんに「どんなセリフがあればうれしいですか?」と直接お聞きしながら「共創」しています。SNSは使い方を間違わなければメリットは大きいと思いますね。

桑江:経営者として取り組まれているSNSのリスクマネジメントがあれば、お聞かせください。

松尾:SNS運用に関してネガティブな面は基本的にないと感じています。ただ、SNSを運用しているか否かに関わらず、良い情報より悪い情報の方が世の中に早く出回ってしまうという認識は持っておいた方がいいでしょう。少なくとも経営幹部、経営者は炎上のリスクや事例は頭の片隅には入れておくべきだと思いますね。

ファンベースマーケティングの入り口にも

桑江:そうしたことに関する情報収集は、どのようにされていますか。

松尾:自分でもFacebookやInstagramなどのSNSを使い、ネットニュースにも目を通しています。小学生の娘もTikTokやYouTubeをよく見ているので、どういうコンテンツが人気なのかを把握するようにしていますね。
Clubhouseはもう下火になりましたが、流行り物はひとまず使ってみるということも大事ではないでしょうか。

桑江:今後はどのような形でSNSを活用していこうと考えていますか。

松尾:会社として力を入れていきたいのは、ファンとの密なコミュニケーションですね。お客様とつながって面白いことを起こしていくというのは、ほとんどやってこなかったジャンルですが、うちのように最終製品を作っている企業はファンベースマーケティングが一層重要になってくると思います。
その入り口として、SNSを使うのはとても大切です。私どもは自社でECを運用していないので、お客様と直接つながれるのはSNSにほぼ限定されています。その中で、うちの商品を買っていただいているファンの方を見つけたり、ダイレクトメッセージでやり取りをしたりしています。
実際に今、ファンインタビューのようなことも少しずつ始めているのですが、自社のSNSアカウントによく投稿してくださっている方にお声掛けさせていただいています。

桑江:新たに取り組もうと考えているオンラインのイベントなどはありますか。

松尾:今は「チロルチョコがなぜお客さんに喜んでもらえているのか、ファンに聞いてみよう」という段階で、少しずつまとまってきた考え方をこれから整理しようというレベルです。
ただ、リアルな場所でもオンラインでも、ファンの方だけが集える場所があるといいですね。情報をいち早く入手できたり開発秘話を聞けたりするクローズドの場所があると、より密にコミュニケーションを取れると思います。
弊社の場合はパッケージコレクターの熱狂的なお客様が多数いらっしゃるので、そういう方々とより密にコミュニケーションを取れば、もっと喜んでいただけるでしょう。お菓子業界はリピートのお客様で成り立っていますので、そうした取り組みは売り上げの安定化にもつながるはずです。

SNSコミュニケーションは「広さ」より「深さ」

桑江:そうしたファンの方々の協力を得て、アンバサダー・マーケティングに乗り出す可能性はあるのでしょうか。

松尾:十分あり得ますね。どういう形がベストなのかはこれから模索する必要がありますが。今はもう広告の時代ではなくなってきていて、リアルな友達からの口コミが最も購買に結び付きます。ですから、そこにつながるようなファンとのコミュニケーションが非常に大切になってくるでしょうね。
ファンインタビューに何度か参加させてもらって感じるのは、自社の製品をすごく好きでいてくれるファンの方と話すのはとても楽しいということです。
ファンの方も好きなメーカーの社員と話せるのは魅力でしょうし、社員もすごくうれしくなります。販売や企画だけでなく、製造部門のメンバーとも情報を共有すると「自分たちの仕事はこういう風に喜んでもらっているんだな」とモチベーションが上がりますから。

桑江:SNSのプラットフォームは、それぞれどのように使い分けていますか。

松尾:TwitterとFacebookはほぼ同じように運用していますが、メインはフォロワー数が圧倒的に多いTwitterです。Twitterはとにかく情報拡散力が高いメディアなので、もっぱらキャンペーンなどに使っています。
Instagramで狙っているのは、画像にこだわれる特性を生かすことです。しっかりお金をかけて撮影した、少しおしゃれな印象の画像を投稿しています。そうした印象を出せないなら、Instagramを使う必要はないと思っているほど。うちのことが本当に好きな方々に受け入れてもらえる世界観を表現するメディアとして活用しています。

桑江:ちなみに、SNS運用の成果を測るKPI(重要業績評価指標)は設定していますか。

松尾:一切していません。フォロワー数や投稿数の管理は担当者に任せ切りですね。大きなキャンペーンの打ち合わせはしますが、日々の投稿に関しての報告はほぼありません。
そもそも、ある程度の知名度を持つメーカーの場合、SNSのフォロワー数と売り上げは連動しないと思っています。フォロワー数が2倍になれば売り上げが2倍になるということはあり得ないので、コミュニケーションは「広さ」より「深さ」の方が大切だという認識です。「フォロワー数が何人になったからSNSの運用担当者が偉い」という感覚は全くないですね。

桑江:なるほど。最後に本日のまとめとして、SNSとの付き合い方に対するご自身のスタンスをお聞かせください。

松尾:中小企業でも、SNSをうまく使いこなせば大きな効果を期待できるでしょう。テレビCMなどよりコストが低く、非常にメリットが大きいメディアだと実感しています。ファンと直接コミュニケーションを取れるのも魅力ですね。
SNSを運用するならしっかり取り組むべきですが、役員クラスがきちんと意義を理解して伸び伸びと運用させることが大切だと思います。1から10まですべての投稿にチェックが入るというのは、SNS本来の楽しさと直結しませんので。
「こういうことはやめよう」という最低限のルールだけを決めておいて、若い世代に伸び伸びと運用させてあげるのがいいのではないかと思います。

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