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謝罪マスターが教える炎上を防ぐための“謝罪する方法”と”謝罪しなくてもいい方法”【第66回ウェビナーレポート】

公開日:2021.09.22 最終更新日:2023.06.20

パネリスト

桑江 令(くわえ りょう)

シエンプレ株式会社 主任コンサルタント 兼 シエンプレ デジタル・クライシス総合研究所 主席研究員。 デジタルクライシス対策の専門家として、NHKのテレビ番組に出演したり、出版社でのコラム、日経新聞やプレジデントへのコメント寄稿も担当。一般社団法人テレコムサービス協会 サービス倫理委員も務める。

ゲストパネリスト

竹中功(たけなか いさお)氏

ワタナベエンターテインメント広報顧問、株式会社フェザンレーヴ取締役社長。1981年吉本興業株式会社入社後、宣伝広報室を設立。『マンスリーよしもと』初代編集長。よしもとNSCの開校。多数の劇場の立ち上げ。沖縄映画「ナビィの恋」、香港映画「無問題」などの映画製作。よしもとクリエイティブ・エージェンシー専務取締役、よしもとアドミニストレーション代表取締役などを経て2015年退社。現在は作家として謝罪関連から、広報、コミュニケーションの専門家としての出版も多数。主な著書に『よい謝罪』『謝罪力』(「日経BP社」出版)など。

謝罪の設計図づくりに欠かせない「事実」の把握

桑江:まずは、ご自身の考える「謝罪力」についてお伺いします。インタビュー記事の中で「一番大事なのは真実を知ること」とおっしゃっていますが、具体的にどういうことでしょうか。

※出典:元よしもとの“謝罪マスター”が、刑務所で働く理由
https://www.kaigishitu.com/meeting-hacks/detail/id=38166

竹中:起こった事実をすべて手に入れなければ原因が見えませんし、正しい謝罪にもたどり着かないということですね。
以前、僕が所属していた芸能プロダクションのタレントさんがガールズバーで店長を殴って逮捕されたことがあったのですが、「なぜ怒って、けんかをしたのか」「どんなお酒を飲んでいたのか」「そこはどんなお店で、女の子は何人いて、他にどんなお客さんがいたのか」など、あらゆることを調べました。
同席していた若手の漫才師にも事実関係を確認しただけでなく、地域の飲食店主からも現場の店の評判を聞き取るなどして、警察より情報を持っていたと思います。
本人は高額な請求をされたことに腹を立てて殴ってしまったらしいのですが、真実を手に入れておかないと、謝罪の設計図を書けません。シナリオがないまま謝罪すると、謝る順番を間違えるといった失敗を犯すことになります。
例えば、先ほどのタレントさんのようなトラブルの場合、最初に謝らなければならないのはけがをさせた店長に対してです。そこで仕事のスタッフや関係者に謝ってしまうと、見ている人も「順番が違う」と不愉快になるでしょう。

桑江:インタビュー記事では「正直にすべてをぶちまけるような気持ちにもっていく」ともお話しされています。つまり、調査するときは加害者側からうまく情報を引き出さなければいけないということですね。

※出典:元よしもとの“謝罪マスター”が、刑務所で働く理由
https://www.kaigishitu.com/meeting-hacks/detail/id=38166

竹中:それが謝罪をするときの必要条件ですが、そこにデータと情報が入り混じってしまうことがあります。
例えば、僕が信号無視をして交差点に進入し、自転車に乗っている人にけがをさせてしまったとします。必要なのは何月何日何時何分、どこに向かって走っていたというデータですが、そこに入ってくるのが「そのとき、竹中は仕事がうまくいかなかったのでイライラしていた」といった情報です。もちろん、いくらイライラしているからといって、信号無視をしていいわけがありません。
真実をすべて手に入れようとするときに大切なのは、情報とデータを一緒にしないことです。非属人的なデータと属人的な情報が混ざってしまうと、「イライラしていたので信号無視をしたのは仕方がない」という論理にもなりかねず、違う問題が生じてしまいます。

桑江:よくある広報の悩みは、真実を確認しようにも嘘をつかれてだまされてしまうということです。ここ数年を振り返っても、あとから嘘がばれて広報の失態と受け止められる事例がいくつもありました。

竹中:ついつい言い訳をしたりごまかしたり、それで通るわけがないと分かっているにも関わらず、いざ質問されると言い逃れをしがちです。聞いていたのに「聞いていませんでした」というような嘘も必ずばれますから。
人間は保身に走やすいのですが、広報がすべての真実を知っていなければ許しを請うための謝罪が台無しになってしまいますね。
特に、名前と数は揺るぎない事実なので、真実を把握する上ではとても大事な要素です。

相手の話を聞き出しやすくする「雑談力」

桑江:相手から話を聞き出す際の距離感は、どう意識されていますか。

竹中:雑談力ですね。重要ではないと思われる話がその人との距離を近づけて、大事な話をすぐに聞き取りやすくなります。初対面の相手との接点が見つからないときは、こちらからボールを投げてみる。「野球は好きですか」「昼食は何でしたか」といったコミュニケーションが距離を縮めます。
相手に質問しながら自分の話をするのも手です。例えば「好きな食べ物は何ですか」と聞きながら「僕はこれが好きです」と自分の話もする。「どんな映画が好きですか」と尋ね、相手が考えているときに自分の好きな作品について話します。
相手が「映画はあまり見ないのですが、本を読むのは好きです」と答えたら、次は本の話に流れていけばいいのです。そうして会話の流れをつくるのが雑談力の始まりだと思いますね。

桑江:そのように交流を持つことを意識して、相手が話しやすい環境をつくってあげるのが重要ということですね。

竹中:オンラインで10回会議をしたら1回でもリアルな出会いを挟むようにすれば、それだけでものすごく通じ合った関係になれると思います。新型コロナウイルスの影響による制約はありますが、オンラインとオフラインの出会いをできる限りうまく使っていくといいでしょう。

リスクを想像して可視化する「謝罪訓練」

桑江:謝罪をするために必要なことについてお聞きした中で、ご自身は「謝罪訓練」も提唱されています。謝罪訓練と聞くと正しい謝り方などを学ぶ内容をイメージするのですが、そうではないということでしょうか。

※出典:https://www.kaigishitu.com/meeting-hacks/detail/id=38331

竹中:謝罪をせずに済ませるための訓練ですね。「リスクの可視化」と呼んでいますが、僕が企業や団体にワークをしに訪れたときは、その会社などのリスクをそこで働いている人たちに書き出してもらいます。
15分か20分の間に1人50項目ずつお願いするので、50人いれば2,500項目です。もちろん、グループ分けしていれば数百項目に減りますが、そこからランダムに選んだ項目について「これが起こったとき、誰がどうするかを決めていますか」と質問します。
例えば、受付の女性が不審者に襲われそうになったとして、その女性にどうするのかを聞くと「総務に電話します」と。さらに、総務の担当者は「電話を受けたら警備に電話します」と言い、そこで初めて警備の人が助けに行きますが、そのときには女性は被害を受けてしまっている可能性がありますよね。
そうなると会社にとって不名誉だし大変な事件なので、さまざまな視点に立って考えられるリスクを山ほど書き出す作業をするのが謝罪訓練です。

桑江:なるほど。

竹中:ある養護老人施設の謝罪訓練では「名前を聞き間違える」というリスクが出てきました。それでどんなことが起こるのかを聞いたら、「例えば『よしえさん』と『よしこさん』では飲ませる薬も連れていくリハビリ施設も違うので、名前を聞き間違えると大事件になる」ということでした。
そうした想像力がなければ突然事件が起こって驚くという事態になるかもしれませんが、常に予測していればどこかにヒントが見つかるものです。
謝罪訓練は正しい謝り方とか、謝罪先にどんな菓子折りを持参したらいいかいったレベルの話ではありません。危機を予測するのは危機を想像するということです。それができると急に謝らなくてもいいし、リスクの発生を未然に防ぐためというのが僕の謝罪訓練ですね。

桑江:実際にやってみると面白そうですね。

竹中:病院で出されたいくつかのリスクを建築業界に持っていって見せたこともあります。全然関係のない業種でしたが、どこかで刺さるものがある。全く違う業種の人たちを一堂に集め、リスクを出し合ってもらうのも面白いですね。
自分の業界には関係のないリスクでも、別の業界では十分に考えられるということを共有できるので、可視化はみんなでやらなければなりません。専門家に「この業界にはこんなリスクがあります」と考えてもらうだけでは身につきませんから。

謝罪が理解されれば味方を生む

桑江:その上で、謝罪しなければならなくなった場合は、早く対応した方がいいということですよね。

竹中:謝罪に対する日本人の反応は特殊で、許してあげた上に「応援するから頑張れ」という言葉まで出てきます。つまり、理解は味方を生むということです。
失敗したときは、しっかり責任を持ってお詫びする姿勢こそが明日を生きることにつながります。何もしないで時間が経てば経つほど、本当に謝りづらくなってしまいますからね。

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