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コロナ禍でPRはどう変わる?【第6回ウェビナーレポート】

公開日:2020.06.24 最終更新日:2023.06.20

パネリスト

桑江 令(くわえ りょう)

シエンプレ株式会社 主任コンサルタント 兼 シエンプレ デジタル・クライシス総合研究所 主席研究員。 デジタルクライシス対策の専門家として、NHKのテレビ番組に出演したり、出版社でのコラム、日経新聞やプレジデントへのコメント寄稿も担当。一般社団法人テレコムサービス協会 サービス倫理委員も務める。

パネリスト

前薗 利大(まえぞの としひろ)

シエンプレ デジタル・クライシス総合研究所 研究員 2011年、シエンプレ株式会社に入社。 桑江の元で多くの案件に携わり現場を経験した後、 代理店担当としてアサツー・ディ・ケイなどとの協業で、 官公庁の他、日本を代表する大企業のリスク対応を多く担当している。

世の中の変化を捉え、自社の取り組みに活かす

桑江:民間企業が実施した各種調査の結果によると、新型コロナウイルスによる経済活動の自粛後、「広報活動に影響が出た」とした担当者は81%に上りました。
担当者のうち55%は新型コロナに関連する情報発信やキャンペーンで広報活動の成果を出せていますが、40%は「成果を出しづらくなっている」と回答。コロナ禍の中では、53%の担当者が新型コロナ文脈の情報発信やユーザー支援施策、CSR活動を展開しています。
また、93%の担当者は「新型コロナ後の広報は変わる」と予想。オンライン記者会見や額面のメディアリレーションズが日常的になると考えていて、実際に60%の担当者はメディアへの情報提供を変更しました。コロナ禍の前と比べて最も伸びた利用ツールはZoomです。
このように、コロナの影響で多くの企業が広報活動に支障を来したり、メディアへの情報提供の方法を変更したりせざるを得ない状況になりました。
しかし、変化をうまく生かして新型コロナ関連の情報発信やキャンペーンを展開した企業の中には、PRに成功したケースも多かったと言えます。

前薗:大規模小売店のお客様が何社かいらっしゃるのですが、店内が密の状態になったり、レジが混雑したりするだけでクレームが寄せられています。
それら1つ1つに理解をいただくのは難しいとのご相談に対して参考にしていただいているのは、他社の良い取り組み事例です。
店舗側が困ってらっしゃることは、良くも悪くもSNS上に投稿されるのですが、ある業務用スーパーでは高齢者と妊婦の方々が買い物をできる専用の時間帯を設け、インターネット上で評価を受けています。企業のロゴマークを使い、ソーシャルディスタンスを呼びかける試みなども好評です。
「よそはよそ、うちはうち」の考え方になってしまうと、こうしたアイデアの着想は得られません。
しかし、「世の中の声に対して何かできないか」という姿勢で取り組んでいれば、比較的好意的に捉えてもらえるケースが多いと感じます。

桑江:成功事例や失敗事例をしっかりと分析しながら、日々変わっていく状況に対するアンテナをしっかり張り、自社のPRに生かしていくことが必要でしょう。

前薗:そうですね。

コミュニケーション無視の一方的な発信は失敗する

桑江:主に海外企業の成功事例を参考にすると、コロナ禍で評価されるPRの共通点は「新型コロナをめぐる重要課題への強力な取り組み」「社会や業界への行動変容の提案」「事業環境好転のアイデアと実践」「従業員やサプライチェーンへの配慮」「国民や消費者を力づけ、希望を与えるメッセージ」の5つです。
こうしたことを踏まえ、ネット上での評判が良い発信者が実際に行っている「SNSを運営する上での留意点」「話題になる、共感を呼ぶような発信を行うコツ」には、どのようなことが挙げられるでしょうか。

前薗:「こうすれば絶対に大丈夫」という正解はありませんが、うまく運用している方の着眼点は大きく分けて2つあります。
それは「世の中の人が何に対して怒っているか」「何に対してテンションを上げているか」。この2つをつぶさに観察して把握し、自社のコンテンツに活かしている企業は比較的外していないという印象です。
自社のエゴで「これを言いたい」「あれを言いたい」ということばかり発信すると失敗するケースが多いかと思います。

桑江:一方的な発信は失敗してしまうというのは、その通りですね。ユーザーからの返信に反応したり、ユーザーとコミュニケーションを取ったりするアカウントは人気があると思います。

前薗:アカウントのキャラクターがぶれていないのも重要な点ですね。
SNSでどんなことを伝えたいのかが定まっていて、ある程度のキャラクターが設定されている企業は、仮にマイナスなことを言ったとしてもそのキャラクターなら許されるという雰囲気が出来上がっていきますから。

アカウントの先に「人」が見えるかがカギ

桑江:ユーザーとの相互のコミュニケーションや他社の公式アカウントとのコミュニケーションが人気の理由になるので、アカウントの先に「人」が見えるかどうかが大切です。
ある企業がFacebookで実験をしたのですが、記事を自動で投稿した場合に比べ、ひと言を添えて投稿した場合のリアクション率は何倍も高くなりました。
単に自動で投稿された場合はその先に「人」がいませんが、ひと言を付け加えることで「人」が投稿してくれているということを感じさせることができるわけです。

前薗:おっしゃる通りですね。

桑江:たったひと手間だけでも反応率が違うので、やはりアカウントに人格を持たせられるかどうかが非常に重要なポイントと感じています。
さて、コロナ禍によってSNS投稿と炎上のタイミングは変わってきていると感じますか。

前薗:長らく「ステイホーム週間」があった中、Instagramが発表したSNSそのものへの接触量はコロナ禍の前に比べて1.4倍ほど増えました。
投稿をご覧になっている方の数は圧倒的に増えていて、今までTwitterやInstagramに投稿したことがなかった方々も投稿に参加するようになっています。
コロナ禍で炎上の仕方やさせ方も変わってきていると感じていて、自粛生活のストレスのはけ口のような反応も見受けられます。
いわゆる「自粛警察」の動機に挙げられる「間違った正義感」の下、自由を謳歌している人や楽しんでいる人に対して攻撃的になっている傾向があるのは確かです。

桑江:なるほど。

世の中のストレス増大で高まる炎上リスク

前薗:飲食店やスーパーなどが感染防止対策を取っていないだけでTwitterにネガティブ情報を書き込まれるといったことは、今までありませんでした。
こうした状況はコロナ禍によって変わってきた炎上のさせられ方ではないかと感じています。

桑江:デジタル・クライシス総合研究所では、リツイート数が1万件を超えた2020年4月の投稿数を調査しました。
その結果、いわゆる炎上件数は前年同月より大幅に増えたことが判明したのですが、その要因はやはり1人当たりのSNSの閲覧時間が増えたことでしょう。
シニア層を含め、自粛生活の影響で新たにSNSを使うようになった人も増えているので、炎上リスクは高まっていると思います。
事実、4月の炎上件数は前年比3倍超の246件で、2019年1月の調査開始以来最多でした。新型コロナに関連しないテーマの炎上もありましたが、世の中のイライラが募っていると言えますね。

前薗:「自粛警察」に見られるように、「自分たちがこんなに苦労しているのに自粛しない人は許せない」「自分たちは経済的に困窮しているのに優遇されている人は許せない」といった形で自分たちのストレスをぶつけるような動きが加速していると感じますね。

桑江:怒りの沸点は確実に下がり、炎上しやすくなっていると思いますが、その企業、アカウントがもともとどのように見られていたかによっても「燃えやすさ」が変わってくると思います。つまり、普段のアカウント運用や企業活動が重要な要素を占めるということですね。
例えば、東日本大震災のときは全く問題がなかった、むしろ称賛されたツイートの内容が批判されて炎上してしまうケースが見られることから、Twitterでも社会的な強者と弱者の「分断」が始まっている気がします。
経済力を基準とした強者と弱者の分断、線引きをしている人が多く、「自分は弱者」と思っている人は芸能人や企業が何か良いことを言ったとしてもイラっとする。
その結果、炎上が起こってしまっているというのがコロナ禍における特徴ではないでしょうか。

前薗:芸能人に対し、募金や寄付を強要するアカウントも多数登場しています。
強者と弱者の構図で言うと、芸能人が標的にされるケースが多く、自粛を推奨するような書き込みをすると「お前たちは金があるから自粛できるのだろう」と非難されてプチ炎上するケースもあります。そこは発信時に注意しなければなりませんね。

桑江:そうですね。コロナ禍の前と比べ、急に炎上が起こりやすくなった業界はあると感じますか。

前薗:もともと炎上が起こりやすかった業界で起きていると感じています。人との接触が比較的多いBtoCの業界が、結果的に炎上の標的になっていることが多い印象です。

桑江:確かに、そのような傾向はコロナ禍の前とあまり変わっていない気がしますね。

前薗:カスタマーハラスメント(カスハラ)が横行していて、リアル店舗でクレームの規模や内容が拡大しているという話も聞きました。
そうした業界での炎上が、より起きやすくなったと捉えています。

チャレンジしなければ反響は得られない

桑江:一方、SNSの反応で炎上や称賛があれば分かりやすいのですが、無風だった場合にどう捉えるかは難しいですね。
ポジティブもネガティブもない状態だったとしても、トライし続けるしかない気がします。ある程度チャレンジしなければ、何らかの反響は得られないと思うので。
もちろん、何も特徴のないツイートであればスルーされてしまうでしょう。YouTuberの企画も、どこまで面白いことをしているかが重要ですから。

前薗:結果として無風状態だった、あるいは少々の批判を浴びるだけで終わったという場合の共通項は見出しにくいですよね。
キャンペーンなどの仕掛けに限らず、「炎上するかも」と思ったらしなかったというケースは枚挙にいとまがありません。

桑江:私たちは企業が発信したいツイートやポスターなどのクリエイティブをチェックするサービスを提供していますが、判断の基となるのは国内外の類似事例です。
炎上事例に関してはストックしたデータベースがあるので、それらと照合して何らかのリスクがないかどうかを見ていくのですが、ポジティブな面についても同様の考え方で進めていくことになるかと思います。
実際の成功事例を参考にしながら、展開しようとしているクリエイティブがどうなのかを推測する形のパターン化しかできないでしょうね。

前薗:半面、SNS上では「この店の従業員がマスクをしていなかった」というような書き込みが毎日のように見受けられます。
炎上するかと思ったら、その投稿が火付け役となり得る方の目にたまたま触れなかったのでセーフだったという事案が圧倒的に多いですね。
だから、常に「炎上するかもしれない」という前提で対処していただいた方がいいかと思います。

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