ホーム > 声を聞く・話題を読む > 再燃するジェンダー問題や異物混入(デジタル・クライシス白書-2021年11月度-)【第72回ウェビナーレポート】

再燃するジェンダー問題や異物混入(デジタル・クライシス白書-2021年11月度-)【第72回ウェビナーレポート】

公開日:2021.12.01 最終更新日:2023.06.21

パネリスト

桑江 令(くわえ りょう)

シエンプレ株式会社 主任コンサルタント 兼 シエンプレ デジタル・クライシス総合研究所 主席研究員。 デジタルクライシス対策の専門家として、NHKのテレビ番組に出演したり、出版社でのコラム、日経新聞やプレジデントへのコメント寄稿も担当。一般社団法人テレコムサービス協会 サービス倫理委員も務める。

パネリスト

前薗 利大(まえぞの としひろ)

シエンプレ デジタル・クライシス総合研究所 研究員 2011年。シエンプレ株式会社に入社。 桑江の元で多くの案件に携わり現場を経験した後、 代理店担当としてアサツー・ディ・ケイなどとの協業で、 官公庁の他、日本を代表する大企業のリスク対応を多く担当している。

選挙特番で失礼発言を連発した出演者に批判

桑江:まずは、テレビの総選挙特番に出演したお笑い芸人A氏の事案です。複数の候補者に歯に衣着せぬ発言を連発したことについて、「態度が悪い」「失礼だ」といった非難を集めました。
A氏の妻である所属事務所の社長はTwitterに発言を擁護するコメントを投稿しましたが、これに対しても批判が相次いだところです。

前薗:インターネットの世界では、芸能人が「こういうキャラクター、イメージ、役割を演じている」というのがあまり通用しなくなってきていると思いますね。

伝説の女優の死を再現、米女性歌手の雑誌写真に「不謹慎」

桑江:米国の女性歌手B氏は、ファッション誌の表紙写真で伝説の女優マリリン・モンローの死を再現、「不謹慎だ」「気持ち悪い」とのコメントが殺到しました。
雑誌やホームページ、CMなどに写真・映像を使う際は、こうした声が上がるかどうかを確認しなければいけませんし、モラルや法的な面、業界の常識と照らし合わせる必要もあります。
そのような意味で、この事案は「クリエイティブ炎上」の一例と言えるでしょう。

前薗:エンターテインメントと企業活動を切り離して考えていただくのはいいと思いますが、SNSの利用者やYouTubeの視聴などがエンタメの延長で企業のコンテンツを視聴することは十分あり得ます。企業の広報やマーケティングの担当者は、エンタメ界隈の炎上事案もしっかり認識しておいた方がいいでしょう。
炎上を防げるかどうかは、プロモーションが批判されるリスクをどこまで想定できるかに懸かっていると思います。有事の際の引き際をどこに置くかを取り決めておくことも大切ですね。

桑江:エンタメであっても、誰かを傷つけたりイラっとさせたりすることがないかという視点は必要だと思いますし、社会規範などに合わせたアップデートも欠かせないでしょう。企業としても、そうした分野のコンテンツとどう付き合っていくのかが問われると思います。

前薗:そうですね。

YouTubeでセクハラ発言のフリーアナがやり玉に

桑江:ベテランのフリーアナウンサーC氏は、お笑い芸人のYouTubeチャンネルでセクハラ発言をし、多くの批判を集めました。生放送以外のテレビ番組の場合、問題のある言動は基本的にカットされますが、YouTubeではそういったチェックが間に合わないことがあります。
そもそも時代錯誤の発言自体をしないように気を付けなければなりませんが、生配信の媒体などに企業の役員や社員が出演する場合は、失言に注意する必要がありますね。

前薗:「テレビ番組では認められない表現でも、ネットならOKだろう」という風潮は、企業のYouTubeチャンネルにも見受けられます。双方とも同じくらい厳しい目でチェックすべきでしょう。

桑江:実際に、担当部署だけでチェックを完結したWeb限定企画が炎上してしまった事案もあります。多くの人の目に触れると予想されるCMや新聞広告などに比べるとチェックが甘くなりやすいかもしれませんが、そのあたりはかなり気を付けなければなりませんね。

前薗:改めて、自社のチェック体制をしっかり確認することが必要かと思います。

内々定者の大量取り消しで物議

桑江:続いては、IT企業のD社が内々定者の大量取り消しを行ったとして物議を醸した事例です。内々定を取り消されたとみられる人物がTwitterで抗議の声を上げたところ、「自分も同じ目に遭った」と名乗り出る人が相次いで話題になりました。その後、D社は公式サイトで説明不足を謝罪し、それぞれの該当者と解決に向けた話し合いを進めているとのことです。
内々定者と内定者を含め、社員やその家族からの告発は、SNSなどを通じてすぐに広まってしまう恐れがあり、企業はそれを踏まえて対応しなければならないと思います。

前薗:この問題のポイントは「内々定」という言葉が持つ意味をどう解釈し、対応していたかということではないでしょうか。D社は説明不足を認めている一方、「法律上は内々定を取り消せる」ということを強めにプッシュしようと考えていたのではないかと推察されます。
しかし、本来は「社会通念上の内々定とはこういうものだ」ということを踏まえた対応を取るべきだったでしょう。法律上は問題ないとしても、それより上の概念に社会通念や慣習があるということを押さえた上で対応しなければなりません。
そういう意味で、企業にとって再現性をはらんでいる事案ではないかと思います。

新型コロナをめぐり医師がデマ拡散

桑江:次は、SNSによるデマの拡散に関する事案です。徳島県の病院の元女性患者が、この病院の男性医師に「新型コロナウイルスに感染したまま退院する患者がいる」というデマを広めるようLINEで呼びかけられたとして、医師と病院側に賠償金の支払いを求める訴訟を起こしました。
この医師は「医療従事者として不適切だった」と謝罪したとのことですが、デマやフェイクニュースの中には、このようにして広がっているものもある気がします。

前薗:医師の発信には影響力もあるので、こうした行為は切に謹んでいただきたいですね。大都市圏と違い、コロナ感染者に対する風当たりが強い地域もあると思いますので。

SNSで店舗を名指し…芸能人のクレーム投稿に疑問の声

桑江:お笑い芸人E氏は自身のInstagramに、フードデリバリーサービスを通じて届いた料理の実物がメニュー写真と全く違うという苦情を投稿しました。
店側が商品を取り間違えたのが原因でしたが、Eは問い合わせなどをしないまま投稿文に具体的な店舗名まで記載したのは事実です。こうしたことから、「注文した店に確認する前に晒すのはいかがなものか」とモラルを問う声も上がりました。

前薗:テレビ番組などでも取り上げられて、結構話題になった事案かと思います。報道によると、最初は「この店はひどい」とEを擁護する声が多かったらしいのですが、店側の単純なミスだったという事実が分かった途端、Eに対して一気にネガティブな意見が寄せられました。
ただし逆に言うと、店側にとって事実関係が判明するまでの間はピンチだったということです。企業としては、こうしたトラブルにいち早く気付けるかがポイントになると思います。

フェミニズム視点の抗議と問題提起に賛否両論

桑江:ここからはフェミニズムに絡む事案です。女性問題が原因で辞職した北陸地方の元県知事が先の総選挙で当選したことに対し、フェミニストとして活動するF氏がTwitter上で抗議を繰り広げました。
半面、F氏の投稿には元県知事の妻まで批判したと受け取れる内容もあり、論争が巻き起こったところです。フェミニストとしてさまざまな言論活動を行っている方々に対する世間の風当たりが徐々に変わってきたような印象も受けます。

前薗:フェミニストの方々の活動が目立つ一方で、Twitter上にはアンチフェミニズムの方々もいらっしゃるので、なかなかゴールが見えてこない状況です。
近年はジェンダー問題が注目されていることから、企業としても同様の批判や指摘を受ける可能性があるということを念頭に置いておくべきでしょう。

桑江:こちらも話題になった事案ですが、観光庁が後援する2次元キャラクターの設定に対して「卑猥すぎる」という声が上がりました。発端となったのは、先ほどのF氏による問題提起です。これを受けて一部キャラクターの設定が変更され、後援企業のロゴも伏せられました。
一方、ネット全体の論調を見ると、もともとのキャラクターを擁護、肯定する声の方が5、6倍も多かったということも分かっています。
しかしながら、この問題を企業に置き換えたときに大切なのは、こうしたリスクがあるという事実を認識しておくべきということでしょう。
また、例え数年前のプロジェクトだったとしても、世の中から否定的な意見が出れば大きな騒ぎになってしまいます。スタートした時点では波風が立たなかったとしても、あとから問題点を掘り起こされるというパターンは増えていますし、そうなった場合はすぐに対応する必要があると思います。
今回の事案の対応内容が正しかったかどうかはともかく、修正などの動き自体は素早かった印象です。

前薗:それもあって、数日間で騒ぎが落ち着いたということでしょうね。

居酒屋料理に虫混入、運営会社の対応に素早さ

桑江:続いても、かなり話題になりました。東京都内の大手居酒屋チェーンGで提供された料理に大量の虫が混入していたことを報告するツイートが拡散され、運営会社が謝罪しました。
写真のインパクトが大きかったということもありますが、当初は非を認めず、事実を隠蔽しようとしているようにも見えた店側の対応に批判の矛先が向けられていたと思います。
ただし、その後の運営会社の動きは非常に素早かったですね。

前薗:食品を扱っている以上、異物混入をゼロにするのは困難と言えるでしょう。重要なのは、そうしたことが起きた場合にどう対処するかということです。
今回の運営会社の対応は、保健所としっかり連携した上で事後対応まで終えたスピード感も含め、非常に良かったと思います。
情報が不足していてすぐに対処できない場合は、今回のように批判が起きそうな問題を1回の発表で封じ切ってしまえるかがポイントになるでしょう。そうしたところは、今回のケースを参考にしていただきたいと思います。

逆風のFacebookが社名変更

桑江:最後に、今月のトピックスです。Facebook社が社名を「メタ」に変更しました。「メタバース」(仮想3次元空間)の構築に大きく舵を切ったのだと思います。
ただし、同社に対する風当たりが強まっているのは事実です。内部告発者が企業モラルなど糾弾し続けていて、広告出稿を停止するといった動きがどんどん出てくる可能性があるでしょう。
FacebookをSNSのプラットフォームとして使っている企業が多い中で、自社がどう対応すべきかを考えておかなければならない部分があると思います。
ユーザーがどう感じているのか、それに対してどうすればいいのか。広告出稿に加え、アカウントの停止を決断する企業も増えそうな気がしますが、それを受けて同社がどう動くのかにも注目していく必要があると感じます。

前薗:いわゆるCookie規制の話も絡んでくると思いますが、SNSの面も技術も拡大する中で、それぞれのプラットフォームとどう向き合っていくべきかということですね。
企業の担当者の皆様はリスクだけでなく、ポジティブなプロモーションの在り方も含めて検討し始めていい段階かと思います。

最新記事の更新情報や、リスクマネジメントに役立つ
各種情報が定期的にほしい方はこちら

記事一覧へもどる

おすすめの記事