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人気ライターからプロゲーマー、企業人事まで。SNS発言が投げかけるもの(デジタル・クライシス白書-2022年2月度-)【第78回ウェビナーレポート】

公開日:2022.03.09 最終更新日:2023.06.21

パネリスト

桑江 令(くわえ りょう)

シエンプレ株式会社 主任コンサルタント 兼 シエンプレ デジタル・クライシス総合研究所 主席研究員。 デジタルクライシス対策の専門家として、NHKのテレビ番組に出演したり、出版社でのコラム、日経新聞やプレジデントへのコメント寄稿も担当。一般社団法人テレコムサービス協会 サービス倫理委員も務める。

パネリスト

前薗 利大(まえぞの としひろ)

シエンプレ デジタル・クライシス総合研究所 研究員 2011年。シエンプレ株式会社に入社。 桑江の元で多くの案件に携わり現場を経験した後、 代理店担当としてアサツー・ディ・ケイなどとの協業で、 官公庁の他、日本を代表する大企業のリスク対応を多く担当している。

企業批判に発展する人事アカウントの炎上

桑江:2022年に入ってから、企業の人事部門のアカウントに対する批判が結構出てきています。
名刺管理サービスを提供するA社の人事担当者を名乗る人物がTwitterの個人アカウントで「採用は“採ってはいけない人”を見極める仕事だ」という投稿をし、「上から目線だ」「自分の立場を勘違いしている」などと批判されました。
本人は該当の投稿を削除して弁明のツイートをしたのですが、その内容があまり反省していないように捉えられ、さらに炎上します。
最終的には「このような人物に人事を担当させている企業はいかがなものか?」と、A社への批判にも発展しました。

前薗:この件に限らず、人事アカウントの炎上事例は枚挙にいとまがありません。
企業の「顔」であるということを認識し、広報・PR系のアカウントも同じように発信内容をチェックしていくべきだと思います。

桑江:人事関連では、美容品を販売するB社がInstagramのストーリーズで求人に関する質問に答えた内容にも批判が集まりました。
「ボーナスはありますか?」という問いかけに対して「支給実績はあります」とコメントしたのですが、問題はそこからです。
国内の20代女性の平均年収などを並べ立てて「毎月受け取る月給以上の成果を出した人にしか支給できません」といった厳しい話をしたのですが、それをわざわざInstagramで言う必要があったのかということです。

前薗:最近は「実態はこうです」というファクト、正論だけを押し付けて炎上してしまうケースが多いですね。「これは本当に外に向かって言うべきことなのか?」というのを、改めて考えた方がいいでしょう。
「正しいかどうか」と「言うべきかどうか」は別の議論なので、「正しければ何を言ってもいい」と判断するのはリスクがあると思います。

緻密なリスクシナリオの有無が明暗を分ける

桑江:沖縄県C市の市長選の候補者ポスターに「米軍コロナ」という表現が使われ、県内外から「差別を助長する」と批判を浴びました。
国内で最も早かった新型コロナ感染の第6波が県内の米軍基地から発生したのは事実です。そこで、この候補者の陣営は「米軍由来のコロナ」という言い回しに変えたのですが、それでも「不適切だ」という指摘は止まず、この候補者は落選してしまいました。

前薗:新型コロナ関連の事象にはいろいろな価値観、立ち位置がありますので、表現は難しいですよね。

桑江:ファッションブランドDの新作リップの発売記念イベントにYouTuberグループのリーダーが来場した様子を紹介したDの公式Twitterに対し、「イメージが悪すぎる」
「ブランドを汚す」「買う気が失せた」といったネガティブな声が寄せられました。
しかし、TikTokでは好評な声が多かったことから、TwitterとTikTok、あるいはInstagramの世論は違うということが分かります。
実際に炎上が起こるのはTwitterなので、そこにばかり目を向けがちですが、「ターゲットとしているプラットフォームはどこなのか?」を冷静に見極める必要があるでしょう。
媒体ごとに表現を変えるだけではなく、どこに投稿するかという判断も必要になってくるのではないでしょうか。

前薗:今後はメディアごとに分けたリスクシナリオも用意しなければなりませんね。何でもかんでもリスクばかりを気にし過ぎると、広告活動が全くできないという事態に陥ってしまいかねないと思いますから。

桑江:続いては、食品宅配のE社で大規模な配送トラブルが発生した件です。発送の遅れや欠品、中止が多発したこと自体も問題視されましたが、SNS上では「混乱しているサービスのCMを流し続けているのはいかがなものか?」という声が多く見受けられました。
このようなトラブルがあった場合、CMや広告などの露出をどうするかを考える必要があると思います。

前薗:インシデント発生時における露出のルールは、あらかじめ決めておかなければなりませんね。
一方、今回は契約者に対して社長が直筆風のお詫びの手紙を送ったことから、一部では「謝罪の仕方は良かった」というポジティブな声も上がっていました。

SNSの向こう側にある世論を見誤ってはならない

桑江:次は、元宇宙航空研究開発機構(JAXA)研究者のF氏が宇宙を舞台としたテレビのアニメ番組を酷評した件です。
自身のTwitterアカウントに「どこが面白いのか」などと投稿したのですが、原作者のG氏が「力不足で申し訳ございません」とへりくだったツイートをして話題になりました。
結果として批判を浴び、ツイートの削除とお詫びを余儀なくされたのはF氏です。Twitterユーザーの論調は、F氏の対応で決まったと思います。
こうした騒動が起こった場合によくあるのは、制作者側がむきになって反論したり、「嫌いな人は見なくてもいい」と開き直ったりすることですが、そうしなかったのが興味深い事案でした。

前薗:企業活動においても、こうした批判のエネルギーがどこに向かうかを注視しておかなければ判断を誤ってしまうかもしれません。批判の矛先がいつ自分たちに戻ってくるか分からないということは、しっかり認識しておいた方がいいと思います。

桑江:さて、大人気の音楽ユニットHの代表曲のキービジュアルを担当し、知名度が急上昇したI氏にトレース疑惑が浮上しました。
もともとは、トレースに気付いたという一般女性が暴露系ユーチューバーの生配信に登場して疑わしき点を次々と指摘したのがきっかけです。
これを受け、Twitterユーザーによる疑惑検証が続き、最終的にはI氏のイラストグッズなどの販売が停止されて大きな影響が出ました。
これに対し、I氏は謝罪文を発表しましたが、「盗用の意図はございません」などと弁明したことから、さらに批判が上がっています。
著作権侵害のような問題をどこまでどう認めるかは法的な解釈にもよるため難しいのですが、今回のような対応だと納得しないのが今のSNS上の世論であるということも考えなければいけませんね。

前薗:インフルエンサーへの告発、リークは、もはや炎上が露出する1つの型になっています。こうした状況に対しては、引き続き注意が必要でしょうね。

桑江:そして、イングランドのプロサッカーリーグであるプレミアリーグのクラブに所属するフランス代表のJ選手の事例です。
自身の飼い猫に暴力的な行為をした動画がインターネット上で拡散され、サポーターを含めて批判が殺到しました。
それでもクラブの監督は彼を試合で起用したのですが、複数のクラブスポンサーが下したのは契約を打ち切るという判断でした。
こうした不祥事があった場合に何もしないスポンサーが批判されるというのは、ここ数年の大きな流れですから、契約の終了を表明したのは重要なリスク対応だったと思います。

前薗:人種問題、動物愛護、環境関連というのは、スポンサーの立場で考えると敏感に反応すべきテーマかと思います。
不適切な言動を支持・応援しているスポンサーとみなされて炎上が飛び火したケースもいくつかありますので、今回の対応はすごく早かったという印象です。

ジェンダー絡みのクリエイティブは論争の的になりやすい

桑江:イタリアンファミリーレストランKでのデートに喜ぶ彼女というテーマで描かれたイラストがTwitterに投稿され、女性の胸の大きさを強調するタッチと「安いファミレスでデートを済ませるなんて」という視点で批判が上がりました。
ただ、全体としてはポジティブな反応が多かったのも事実です。Twitter上では、イラストの構図を真似た実写版の投稿も続出しました。
一方、Kとしては、いわゆる巻き込まれ系の炎上事案ということになります。例えば「デート割引キャンペーン」といった形でそれに乗ってバズらせるという方法も考えられますが、リスクもあるので悩ましいところですね。

前薗:ジェンダーバイアスに対して否定的な意見を言う人を否定する人も増えてきているので、表現者側にとっては無用な論争に巻き込まれる可能性も高まっているのではないかと思います。
今回は本当に賛否両論に分かれ、ここぞとばかりに実写版を投稿するインフルエンサーも相次いだので、Kの売り上げがどう変化したかを知りたいですね。

桑江:ドイツのスポーツウェアメーカーLは本国のTwitter公式アカウントに、新たに発売するスポーツブラの広告として女性25人の裸の胸の写真を投稿しました。
ネットユーザーの間では「不適切だ」という声が出ましたが、「大胆なビジュアル」と評価する向きもあります。この件もまた、なかなか評価が難しいのではないでしょうか?

前薗:チャレンジングかつメッセージ性がある広告だったと思いますが、やはりいろいろな捉え方があるというのが評価の分かれるポイントですね。

ライブ配信で起こりやすい軽率な言動

桑江:人気プロゲーマーのM氏が動画の生配信中に発した「身長170センチ以下の男に人権はない」という言葉に批判が続出し、所属チームにも契約を解除されました。
もっとも、ゲームの世界では「人権」という言葉が違う意味で使われています。例えば、弱いキャラクターは「人権がない」と言い表され、M氏もそのようなニュアンスで口にしたのだと思いますが、今回は仲間内だけで済まされる話ではありませんでした。
世の中で「人権」という言葉が持つ意味が大きくなっていることに気付けなかったのも、大きな騒動になった一因かと思います。

前薗:最近はライブ配信が多様化していますが、仲間内のノリがウケることもある半面、軽率な言動が炎上につながった事例も多数に上ります。
また、異性の容姿に関する話題のように、いわゆる昔ながらのトーク自体が許容されづらくなっているということに関しても注意が必要だと思います。

桑江:実業家のN氏は自身のYouTubeチャンネルで、これまでに関わりのあった芸能人の違法行為も含めた「裏の顔」を暴露していくことを示唆しています。
リストアップした芸能人をプロモーション活動などに起用しようとしている企業に注意を促す内容なので、リストなどには注目しておかなければならないでしょう。

前薗:「このタレントはこう言われているらしい」という記事が出回り始めていますので、企業としては注視していくべきだと思います。
ビジネス界隈の炎上事案については、インフルエンサーが動画の生配信で解説することで、さらに炎上しているのが実態です。Twitterだけではなく、YouTubeではどうなっているかということもしっかりウォッチする必要性が、さらに高まるのではないでしょうか。

ロシア事業継続のリスク検証が必須

桑江:ロシアのウクライナ侵攻をめぐり、ネット上ではフェイクニュースが出回っています。
Twitter上ではロシア軍の情報をまとめたアカウントが誤って凍結されるケースも見られ、かなり混乱しているのも事実です。
両国に全く関わりのない企業は特に対処する必要はなさそうですが、ロシアでの事業展開を中止する企業が相次ぐ中、何らかの絡みがあれば「自社はどうするか?」を考えなければならないと思います。
そのほか、過去に投稿したロシア軍機のイラストに対して「こんなときになぜ、こんなものを上げているのか」という的外れな批判が出たという話もあるので、自社のコンテンツなどに同様のものがないか確認しておくことも必要になる気がします。

前薗:世の中の人たちは細かく見ているので、自社の取引先や関係会社などにロシアとのつながりがないかということも必ず調べていただきたいですね。
また、現時点ではどんな声が寄せられるか分からないため、「ウクライナに寄付をします」というような発信を急ぐ必要はないと思います。

桑江:「話題集め」「売名」と糾弾されてしまうリスクもありますので、うまく見極めながら対応していただくのが望ましいですね。

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