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凶事におけるSNS上の動きと留意点とは(デジタル・クライシス白書-2022年7月度-)【第90回ウェビナーレポート】

公開日:2022.08.03 最終更新日:2023.06.21

パネリスト

桑江 令(くわえ りょう)

シエンプレ株式会社 主任コンサルタント 兼 シエンプレ デジタル・クライシス総合研究所 主席研究員。 デジタルクライシス対策の専門家として、NHKのテレビ番組に出演したり、出版社でのコラム、日経新聞やプレジデントへのコメント寄稿も担当。一般社団法人テレコムサービス協会 サービス倫理委員も務める。

パネリスト

前薗 利大(まえぞの としひろ)

シエンプレ デジタル・クライシス総合研究所 研究員。2011年、シエンプレ株式会社に入社。桑江の元で多くの案件に携わり現場を経験した後、代理店担当としてアサツー・ディ・ケイなどとの協業で、官公庁の他、日本を代表する大企業のリスク対応を多く担当している。

元首相死去を受け、広告などが「不謹慎狩り」の標的に

桑江:直近1カ月間は、世の中を揺るがす事件が続発しました。
それらを踏まえ、SNS上でどんな動きがあったのか、どんなことに留意しなければならないのかなどを振り返りたいと思います。
まずは、7月8日に発生し、世界に大きな衝撃を与えた元首相の襲撃事件です。
元首相の搬送先の病院が開いた記者会見のバックボードが病院の広告だったことや、本人の死去を伝えるニュースサイトに葬儀社の広告が挟まれていたことに対して「不謹慎だ」との指摘が寄せられました。
さらに、死去のタイミングで大量のプロモーションを展開していたショッピングサイト、襲撃事件を彷彿とさせる「銃」「殺し屋」などが登場する漫画・アニメのインターネット広告にも同様の声が上がったのが印象的でした。
企業として対応するのが難しいのは確かですが、大きな事件が発生した際の広告に関しては取り下げなどの是非をただちに判断するための体制づくりが絶対に欠かせないでしょう。

前薗:災害も含めて大事件が起こった場合、今回の表現のような広告の発信を即時停止するなど代理店とレギュレーションを決めておくことが求められると思います。

テレビCMはACジャパン広告に切り替え

桑江:元首相の死去を受け、テレビの民放各局は通常のCMをACジャパンの広告に切り替えました。
有事の環境下で「不謹慎だ」と批判されないよう各スポンサーがCM放送を自粛したのに加え、事件のインパクトが強すぎてCMの効果が薄くなるという判断もあったと思います。

前薗:テレビCMが早い段階で切り替わった中では、いわゆる「不謹慎狩り」をしようとする方々が一斉にネット広告に向かう傾向が見て取れました。
私たちが担当しているプロモーションのプロジェクトでも、災害発生時などのSNS投稿や広告出稿のルールの見直しに入った企業が増えています。

桑江:襲撃事件のニュースが広まったタイミングで、自社の広告やプロモーションを止めるべきかどうかということにまで気が回ったかという点も顧みる必要があるでしょう。
それが頭に浮かばなければ取り下げなどを判断しようもないので、ケーススタディとして振り返っておくべきですね。

前薗:同業他社がどんな動きをしていたかも見返していただければと思います。

写真や動画の普及で高まるハラスメント告発のリスク

桑江:次は、ハラスメントに関する炎上事例です。青森県の住宅建築業A社に勤務していた40代の男性社員が自殺したのは上司のパワーハラスメントが原因として、男性の遺族がA社と社長に約8,000万円の損害賠償を求める訴えを起こしました。
遺族側は、男性社員は営業成績を讃えた賞状形式の「症状」が交付されるなどの誹謗中傷を受けたと主張。「症状」はインパクトが強かったことからTwitter上でかなり拡散され、A社への批判が集中しました。
なお、A社の公式サイトでビジネス情報は一切見られなくなり、本件に関する「お知らせ」のみが表示されています。

前薗:炎上の観点で言うと、「症状」のように大勢の目を引くようなパワーワードが含まれていると炎上リスクは格段に高まります。
企業としてはハラスメントなどに該当するかどうかということと同時に、アップされている内容そのものにどれだけのインパクトがあるのかを見なければなりません。
また、ハラスメント告発の多くは、今までは問題がなかったとされる慣習を続けてしまったことによるものです。
我慢し切れなくなった方がインフルエンサーたちにリークをする動きも見られますので、昔ながらの社内文化や商慣習を疑ってかかるべきタイミングにきていると思います。

桑江:元舞妓のライター、Bさんは「16歳での飲酒」「客との混浴の強要」など、さまざまなセクハラやパワハラを受けたとツイートし、13万件を超えるリツイートを集めました。
業界関係者からの内部告発も多数に上り、非常に大きな話題となったところです。

前薗:スマートフォンの普及で、エビデンスが残りやすくなりました。言葉だけではなく、それを裏付ける写真や動画なども存在するケースが多いですね。
これまでは週刊誌などに取材をしてもらわないと告発できませんでしたが、今は自ら証拠を持っている個人がメディア化しています。
最初に証拠が示されなかったとしても、あとから出てくる可能性があることを併せて押さえておいていただきたいですね。
ハラスメントの告発を対岸の火事とせず、自社で起こる可能性について考えていただきたいと思います。

誰もがスマホを手に「証拠」を集めている

桑江:米国の遊園地では、キャラクターと触れ合おうとした黒人の女の子2人が無視されたように見える動画がSNS上に投稿され、「人種差別ではないか?」との批判が集まりました。
今は、あらゆる事象が写真や動画に撮られて証拠になります。
店舗の従業員の振る舞いや、お客様相談センターの電話もすべて晒されていることを意識しなければなりませんし、社員1人1人のオフラインの行動も告発されるリスクがあることを認識しなければなりません。

前薗:昨今の炎上事案は、すべてそのパターンだと思います。
誰もがスマホを手に、常に証拠を集めているのに近い状況です。
反論・反証される材料がどれだけあるか分からない中、「誤解を招いた」というような謝罪が通用しないケースは少なくありません。
ブランドを守っていく上では、指摘を受けたことに対して真摯に回答することが一層求められています。

炎上の連続は「対岸の火事」ではない

桑江:回転ずしチェーン大手のC社は、生ビール半額キャンペーンの告知物を開始日(7月13日)の数日前から誤って一部の店頭で掲示していたと発表して陳謝しました。
しかし、いざキャンペーンが始まると、開店直後から生ビールが品切れになっているとの指摘が寄せられてトラブルになりました。
C社は6月にも、大半の店舗で提供を中止したメニューの宣伝を続けたとして、消費者庁から再発防止を求める措置命令を受けています。
こうしたことがあったにも関わらずオペレーションのミスが起こったということで、非常に大きな批判が出ました。
一度問題を起こして注目されてしまうと粗探しをされ、新たな不始末が発覚すれば「またか」という目で見られてしまいます。

前薗:炎上は連続しますが、それが同じ企業で起こるとは限りません。
例えば、C社と同じようなキャンペーンを展開している別の飲食店も、来店客に「キャンペーンの内容は果たして本当か?」という厳しい見方をされてしまうかもしれないということです。
炎上は同じ企業で連続することもあれば、その他の企業で連続することもあり得るので、今回の事案を「対岸の火事」と捉えるべきではないでしょう。
自社のオペレーションの見直しなどを徹底することで、炎上リスクはかなり下げられると思います。

テレビ局が情報操作!?番組の報道内容が物議

桑江:猛暑続きで電力需給がひっ迫している中、民放テレビのD局が番組で放送した家庭の電力使用量に関するグラフから「テレビ・DVD」の使用分(8.2%)をカットしていました。
Twitterでは「捏造だ」「悪質すぎる」といった声が上がり、D局は事実関係を認めて「丁寧さに欠けていた」と釈明しました。
従来は企業やメディア側が圧倒的に多くの情報を持っていましたが、今や消費者側との格差はほぼなくなっています。
今回の事案は、情報を少しでも加工したり変えたりすると、すぐにばれてしまうことを証明したと言えるでしょう。

前薗:テレビの報道姿勢などに対して一定数のアンチがいるということを前提にしなければ、リスクになり得ると思います。
YouTubeでも「テレビが言っていることは間違っているのではないか?」というスタンスで検証する動きが見られるので、そうしたこともリスクとして捉えておいた方がいいですね。

個人情報の漏洩、不正利用が相次ぐ

桑江:音楽CD・レコードチェーン大手のE社は、顧客の個人情報が漏洩したことを公表しました。漏洩の件数は、最大約70万1,000件に上ります。
クレジットカード情報の漏洩の可能性はないということでしたが、音楽配信サイトへの不正ログインなどの被害が次々と報告され、不安が広がりました。

前薗:情報漏洩の事案も続いているという印象です。
ただ、漏洩が起こったこと自体に怒っているユーザーは減少傾向にあります。
攻撃する側の手口が巧妙になっていることへのリテラシーが高まっている証拠かと思いますが、発覚後の情報公開やアフターサポートが不十分な場合は批判されるので、そうした点には注意していただきたいですね。

桑江:携帯電話キャリア大手のF社は、代理店の販売員による不正契約があった事実を認めました。
個人情報を不正利用され、無断で契約されたユーザーがSNS上で告発して明らかになったのですが、一部では騒がれているので、今後どうなっていくのかが注目されます。

前薗:最近は、販売代理店やフランチャイズ側の対応が不十分だったせいで、本部が対応に追われるケースが見受けられます。
フランチャイズを運営している企業は、サービスのクオリティーが一定に保たれているかどうかを見直すべきでしょう。

芸能プロのチケットアプリ利用規約に「一方的」との声

桑江:芸能事務所大手のG社が導入した公式チケットアプリの利用規約が、あまりにもひどいと話題になっています。
iPhone7、Android10.0以前の端末はチケット購入の申し込み自体ができない上、申し込みの代表者が新型コロナウイルスに感染した場合は本人も同行者も入場できず、返金対応もないということです。
さらに、通信障害などで入場できない事態になっても、G社は一切責任を取らないと明記したことに対して批判が出ました。

前薗:最近はユーザーがしっかりと利用規約をチェックした上で指摘するケースも増えています。
自社に有利な条件をこっそり握ろうとしても炎上してしまうことがあるので、その点は注意が必要ですね。

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