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なぜCM動画は炎上するのか?クリエイティブを科学することで見えることとは【第92回ウェビナーレポート】

公開日:2022.09.14 最終更新日:2023.06.20

パネリスト

桑江 令(くわえ りょう)

シエンプレ株式会社 主任コンサルタント 兼 シエンプレ デジタル・クライシス総合研究所 主席研究員。 デジタルクライシス対策の専門家として、NHKのテレビ番組に出演したり、出版社でのコラム、日経新聞やプレジデントへのコメント寄稿も担当。一般社団法人テレコムサービス協会 サービス倫理委員も務める。

ゲストパネリスト

冨岡 信之(とみおか のぶゆき)氏

GMOプレイアド株式会社 代表取締役社長。デジタルエージェンシーでの広告営業を約10年、そののち運用型広告のコンサルティングとエンジニアの組織づくりに約5年従事、現在GMOインターネットグループの広告メディアセグメントで、GMOプレイアド株式会社を立ち上げ、代表取締役として広告業界に貢献すべく事業展開。進化する広告メディアに対し、CM制作工程をDXして広告主の課題解決するSaaS動画検証ツールPlayAds(プレイアズ)を開発提供。プライベートではトライアスロンで海外のアイアンマンレースに出場しており、CMクリエイティブの分析ができる最も体力がある人間の1人。

動画広告市場の急拡大で高まる企業リスク

桑江:ジェンダーバイアスやハラスメントなどを理由に物議を醸したCM動画は、これまで数多く存在します。
賛否両論が巻き起こったコンテンツに関しては、ポジティブな意見の割合が多かったにも関わらず、ネットメディアが一部のネガティブな声を切り取って「炎上した」と騒ぎ立てる非実在型炎上のようなケースもありましたが、そもそもCM動画の炎上はなぜ起こるのでしょうか。

冨岡:インターネット広告市場の成長とともに、動画広告市場も急拡大しています。
言うまでもなく、動画広告が伸びている要因はYouTubeの台頭やスマートフォン、タブレット、スマートテレビなどのデバイスの普及、あるいは5Gに代表される通信インフラの高度化です。
とりわけYouTubeの影響力は大きく、新たに誕生した運用型テレビCM市場もどんどん拡大しています。
こうした中、企業が動画を使う機会も増えているのですが、炎上やレピュテーションリスクが発生する可能性が高まっているのも確かです。

桑江:生活者との接点を得るためには、動画を活用しないわけにいきませんね。

冨岡:動画メディアは多様性にあふれ始めていて、クリエイティブのクオリティーが広告の成果を左右する大きな要因になっています。
そのため、我々はクリエイティブの作り方にもデジタルトランスフォーメーション(DX)が必要だと考えているのです。

桑江:確かに、「なぜ、こんな動画を世に出したのだろう?」と不思議に思えるCMもありますよね。

「差別」「偏見」「軽視」「危険」「誘導」が炎上のトリガー

冨岡:CM動画の炎上要因は、大きく2つに分類できます。
1つは「出演者の不祥事などによる炎上」で、もう1つは「キャッチコピーやストーリーなど映像表現の炎上」です。
映像表現の炎上のトリガーは「差別」「偏見」「軽視」「危険」「誘導」の5つの要素に分解でき、これらに触れると炎上リスクが非常に高まります。

桑江:なるほど。

冨岡:CM動画は閉ざされた世界のクリエイティブチームが制作しているので、その動画が世に出る前は「不快に思う人がどれだけいるのか?」ということを完璧に把握するのは困難です。
公開された動画に対してネガティブな印象を持つ人が少しでもいれば、さまざまなソーシャルメディアで批判が拡散されてしまいます。

桑江:ネガティブな情報は、ポジティブな声より拡散力が強いですしね。

クリエイティブの事前検証で成果を最大化できる

冨岡:炎上のリスクヘッジには、動画を科学しながら作ることでクリエイティブをDXしていくという視点が欠かせません。
さらに、クリエイティブを事前に検証することで、より高い成果を引き出せます。曖昧な感覚に頼らないPlayAdsの制作フローなら意思決定に費やす時間やコストを削減できますし、最大の成果を見込めるクリエイティブだけで作った広告を世に出せます。

桑江:炎上のリスクヘッジ以外の効果も見込めるのですね。

冨岡:クリエイティブを見る視点は、組織での役割によって異なると思います。
経営幹部が発した鶴の一声でクリエイティブが意思決定されることも日常的に起きていると思いますが、本当に大事なのは生活者の声です。
経営幹部は企業イメージを向上させる表現を重視したいはずですし、マーケティングの担当者なら攻めたメッセージでエッジを立てたいでしょう。
また、法務担当者はブランド毀損やレピュテーションリスクを招かないように守りの表現を優先すると思いますが、生活者の声を中心に置いておかなければなかなか案がまとまりません。

桑江:閉ざされたチームではなく、開かれたチームで制作する必要があるということですね。

ターゲット層以外の反応と比較することが重要

冨岡:科学しながら作った動画は、着実に成果を上げます。
あるスタートアップのCM動画は、25%視聴地点で反応率が伸び悩んでいたシーンの間延びを短縮した結果、視聴率が大幅に改善しました。
Web広告を配信しているゲーム制作会社は「好き」の反応が高いカットを冒頭に移動し、ダウンロードのコンバージョン率を飛躍的に向上させています。

桑江:炎上リスクの事前検証のためのモニターを選定する場合、どのような点に注意すべきでしょうか。

冨岡:社員の皆さんにCM動画を気軽に見てもらい、Googleフォームでアンケートを実施している企業もありますが、ターゲット層の比較対象となるグループをしっかり選定することが大事です。
例えば、30代の母親をターゲットにした製品CM動画なら20~60代の女性グループ、もしくは男性のグループもつくり、30代の母親グループとの反応の差で影響力を測るようにすれば良いでしょう。
反応の絶対値は企業や製品によって異なるため、比較対象がなければ炎上リスクの大小を把握しにくいと思います。

桑江:Twitterの投稿が炎上しやすい理由も、想定外の対象にまで拡散してしまいやすいということが挙げられます。
やはりターゲット以外の層の反応も見なければ、思わぬリスクを招きかねませんね。

冨岡:クリエイターやストラテジックプランナーが知恵を絞った表現が、実はターゲット以外の層に刺さっていたということが分かる場合もあります。

表現はリアルタイムの検証が不可欠

桑江:過去と直近のCM動画を比べたときに感じる違いはありますか。

冨岡:直近のCM動画はメッセージが最大公約数的で、可もなく不可もない無難な表現にとどまっていることが多いですね。
生活者の視点で言えばあまり面白くないのですが、もはやメッセージでは攻めづらくなっているのだと思います。
大手企業は炎上に対応できる組織や手段がありますが、多くの企業はそうではないことも、表現を小ぢんまりとしたものにさせているのではないでしょうか。

桑江:表現次第で見え方はかなり変わると思います。絵コンテの段階から検証しなければ、炎上リスクに気付けないこともありますよね。

冨岡:クリエイティブは生き物です。例えば、在宅ワーク中の父親がダイニングテーブルで息子とコミュニケーションを取るようなシーンは、新型コロナウイルスの感染拡大を機に当たり前になりました。
反対に「3カ月前なら炎上しなかったけれど、今は通用しない」という表現もあるので、リアルタイムで検証することが非常に重要だと思います。




冨岡 信之(とみおか のぶゆき)氏
GMOプレイアド株式会社 代表取締役社長。デジタルエージェンシーでの広告営業を約10年、そののち運用型広告のコンサルティングとエンジニアの組織づくりに約5年従事、現在GMOインターネットグループの広告メディアセグメントで、GMOプレイアド株式会社を立ち上げ、代表取締役として広告業界に貢献すべく事業展開。進化する広告メディアに対し、CM制作工程をDXして広告主の課題解決するSaaS動画検証ツールPlayAds(プレイアズ)を開発提供。プライベートではトライアスロンで海外のアイアンマンレースに出場しており、CMクリエイティブの分析ができる最も体力がある人間の1人。

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