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現場で起こった事象がSNSで拡散する時代。社内のリスク管理は新たなフェーズへ(デジタル・クライシス白書-2022年9月度-)【第93回ウェビナーレポート】

公開日:2022.10.05 最終更新日:2023.06.21

パネリスト

桑江 令(くわえ りょう)

シエンプレ株式会社 主任コンサルタント 兼 シエンプレ デジタル・クライシス総合研究所 主席研究員。 デジタルクライシス対策の専門家として、NHKのテレビ番組に出演したり、出版社でのコラム、日経新聞やプレジデントへのコメント寄稿も担当。一般社団法人テレコムサービス協会 サービス倫理委員も務める。

パネリスト

前薗 利大(まえぞの としひろ)

シエンプレ デジタル・クライシス総合研究所 研究員。2011年、シエンプレ株式会社に入社。桑江の元で多くの案件に携わり現場を経験した後、代理店担当としてアサツー・ディ・ケイなどとの協業で、官公庁の他、日本を代表する大企業のリスク対応を多く担当している。

営業車の危険運転も現場で起こった事象

桑江:まずは「違法行為・疑惑」のカテゴリーです。
清掃業などを手掛けるサービス業大手A社の名前が入った営業車が、兵庫県内で信号無視をした動画がTwitter上で拡散しました。
A社は謝罪したものの、その内容などに寄せられたのは厳しい声です。
謝罪文が公表されたのは8月29日ですが、危険運転の動画が撮影されたのは3週間も前の8月8日でした。
また、謝罪文には「フランチャイズチェーン(フランチャイズ)」という言葉が5カ所に記されており、Twitter上では「フランチャイズのせいにしているのか?」という趣旨の批判が続出しました。A社の企業向けサイトに謝罪文が掲載されなかったことを疑問視する声も寄せられています。
しかもA社は、危険運転の発生日と運転者を再確認することを謝罪の翌日に「内容の訂正」という形で公表したため、インターネット上を中心とした世論をさらに落胆させることになりました。
ドライブレコーダーが普及した中、営業車の危険運転が招いた炎上はここ数カ月間でも何件か起きています。ただ、今回は謝罪の方法も反発を浴びたことで炎上が長引いてしまいました。

前薗:営業車による不祥事は以前からある話ですね。炎上にこそ至らなかったものの、コンビニの駐車場に長時間居座ったり、車線変更が荒かったりする営業車の動画や写真がSNS上で晒されてしまったケースは少なくありません。
営業車を稼働している企業はもちろん、今や公道を走るすべての車がメディアの対象になり得ることを念頭に置くべきです。
また、過去の炎上事例に学ぶという観点では、フランチャイズの本部が加盟店で起こった衛生的な問題の解決を主導して炎上の沈静化を速やかに図った実例もあります。
フランチャイズビジネスを展開している場合、不祥事をフランチャイジーの責任にしすぎてしまうとA社のような事態に陥ってしまいがちです。
まずは本部の責任を認めた上で、どんな対応を取っていくのかというコミュニケーションプランを立てる必要があるでしょう。

取引先としての対応も注目される

桑江:続いても、炎上が連続してしまった事例です。
中古車販売大手B社が車両修理費用を組織的に水増し請求している疑いが2021年秋に表面化したのですが、取引先である大手損保各社の対応が迷走しています。
一部の損保会社は不正請求の原因について限定的な調査しかしなかったにも関わらず、「組織的な関与はなかった」とするB社の主張を全面的に受け入れ、いち早く取引を再開しました。
ところがその後、B社の社員らの証言で組織的な関与の疑いが強まると、2022年9月に再び取引を停止。他の大手損保会社から「B社と癒着しているのではないか?」と勘繰られる事態に陥りました。
「一億総メディア時代」の今は内部リークがあるのは当然ですし、都合の悪いことを隠そうとしても無理です。過ちを犯したなら早々に認めるしかありません。
また、不祥事を起こした企業の取引先の対応も注目されます。世の中の論調をしっかり見極めた上で、どう動くかを決めなければなりません。
「取引を停止する」と明確に言い切れる根拠があるなら、企業として毅然とした態度を取った方が世の中に評価されると思います。

前薗:そうですね。

新たな火種が出る前にリスクを解決しておくことが肝心

桑江:次も、連続した炎上が招いた事例です。
大手回転ずしチェーンC社がマグロの種類を偽装しているという記事が週刊誌で報道されました。
テレビ番組で「味が濃厚なメバチマグロのみを使っている」というC社の紹介に疑念を抱いた業界関係者がDNA鑑定で調べた結果、キハダマグロの使用が判明したという記事でしたが、伏線となったのはC社が「おとり広告」で炎上を繰り返していたということです。
つまり、業界関係者がDNA鑑定にまで踏み切ったのは、炎上の連鎖が招いたC社への不信感があったのが原因と言えます。「おとり広告」がなければ、偽装を疑われることさえなかったかもしれません。
SNS上でも「またか」と呆れる声が上がり、「担当者が誤った認識のままメバチマグロのみを使っているという回答をしてしまった」というC社の釈明にも「誰も信じない」「すべてが苦しい言い逃れにしか思えないくらい信用が低くなっている」といった批判が寄せられました。

前薗:我々が炎上対応の現場で必ず言わせていただくのは「どんなに小さなリスクの種もリストアップしてください」ということです。
ひとたび指摘された事象については内部リークをされる可能性が高まりますし、ネットユーザーもメディアも粗を探します。
1つ1つのリスクを解決できないまま新たな火種が次々と出てくれば、企業経営に想定以上のダメージが残ってしまいかねません。

注意喚起の表現は誤解を招かないようにする

桑江:続いては「接客・対応方法」に関する事例です。
ファミリーレストランチェーン大手D社の一部店舗が、女性アイドルグループのライブに訪れたファンの無断駐車を注意する張り紙を掲示したのですが、「最低限のマナーすら守れない最低のファンが多くてとても素晴らしいグループですね笑」といったシニカルな文面に賛否両論が起こりました。
店舗側に批判が集中しているわけではありませんが、SNS上で晒されてしまいますので、言い回しはよく考えた方がいいかと思います。

前薗:読み手にどう受け取られるか分からないので、注意喚起をする場合は注意喚起の表現に徹した方がいいと思いますね。
「自分たちが応援している対象を攻撃された」と捉えられると、さらに炎上してしまう可能性があるため、表現には注意が必要でしょう。

緊急時こそ丁寧なコミュニケーションを

桑江:大阪発東京行きの夜行バスを運行するE社が、深夜の京都駅前で乗客全員を突然下車させて運行を中止しました。
バスの空調トラブルが原因で、返金には対応しましたが、乗客はそれ以上のケアがないまま「置き去り」にされたということです。
E社は「乗車代金を上回るお金を渡した」「熱中症などのリスクを考えると適切な処置だった」との見解を示し、法律上は問題がなかったことを強調しました。しかし、乗務員の対応は最低限のものだけだったとも言えます。
緊急時においては規定一辺倒ではなく、いわゆる「神対応」まで考えられるかがポイントです。
もちろん、現場のスタッフにその場で「神対応」を取らせるのは難しいでしょうが、今回のような状況になれば、その瞬間からSNS上などでの拡散が始まることを忘れてはなりません。

前薗:要するに「説明」の部分ですよね。お金を渡すだけでなく、お客様の納得感を醸成しなければ、すぐさまSNS上で拡散してしまいます。
しかも「置き去り」といったバズワードを入れられてしまうと、さらに炎上してしまうかもしれません。緊急時こそ、より丁寧なコミュニケーションが求められるということですね。

桑江:バスに関係する事例を続けましょう。静岡県内を走っていた路線バスの運転手が、マスク着用を拒否した女性客をバス停ではない場所で下車させ、バス会社のF社は国土交通省の中部運輸局から行政処分を受けました。
行政処分に対しては「厳しすぎる」といった声が出た半面、「バス停ではない場所で下車させてはいけない」と理解を示す向きもあり、賛否が分かれた印象です。
屋外ではノーマスクの方が見受けられるようになったとは言え、マスク着用に関するいざこざはまだまだ続くのではないでしょうか。

前薗:マスクはもちろん、子どもに対するワクチン接種の是非など新型コロナウイルスを取り巻く価値観は分断が進んでいます。
企業として大切なのは、どんな判断に基づいたスタンスを取るのかということですね。
一方的な基準を押し付けるのではなく、丁寧なコミュニケーションの下でPRしていかなければ、どちらの意見の側からも攻撃を受けることになってしまいかねません。

痴漢に敬語の駅アナウンスに批判

桑江:東京都心のJR駅ホームで、駅員が拡声器を用いて「痴漢は多くいらっしゃいます」とアナウンスした動画も、現場で起きたことがSNS上ですぐさま拡散した事例です。
「痴漢をされたくないお客様は(混雑していない)後ろの車両をぜひご利用ください」とも呼び掛けたのですが、「痴漢に敬語を使うのか」「車両を移らなかったら、痴漢されても仕方ないとでも?」といった批判が相次ぎました。
駅ホームの光景は誰が撮影しているか分かりません。SNS上で話題になった動画をテレビのワイドショー番組が放送するという流れも、もはや定着している気がします。

前薗:電車を待っている間はスマートフォンに触っていることが多いせいか、駅での出来事は特に拡散されやすくなっているという印象ですね。

性急な幕引きは追撃ネタ投下の隙を生む

桑江:さて、「著名人・経営者」に移りましょう。約3年前の性加害疑惑を報じられた俳優のG氏の事例です。
報道の翌日には週刊誌の報道内容を事実と認めるコメントを発表し、自らがMCを務めるテレビの情報半組で生謝罪もしたことで、うまく収束できそうな気配が濃厚でした。
ところが、翌週発売の週刊誌には、かなりインパクトのある写真と共に続報が掲載され、世論が一気に悪化しました。
その翌日には、自動車会社など計4社がG氏との広告契約終了を発表し、情報番組のMC降板も決定。別のテレビ局もG氏の出演番組の放送を中止しました。
この事例のポイントは2つあります。1つは、G氏を起用していた各社・各局が世論をしっかり見極めていたということ。もう1つは、世論が悪化した翌日にはリリースを出したということです。
数年前までは、企業がこうした態度を表明するケースは稀でした。しかし、最近はしっかりと意思表示することがオーソドックスになっています。

前薗:メディア側やインターネット上のインフルエンサーがどんな情報を持っているのかをしっかり想定しておかないと、追撃ネタを投下する隙を与えてしまいかねません。
考えられるネタがすべてオープンになってから幕引きを考えるようにしなければ、最初に謝罪しただけでは済まない責任の取り方を求められるリスクが高まります。

不都合な事実は先手を打って公表するのが鉄則

桑江:石油会社大手のH社は、8月に退任した前会長グループ最高経営責任者(CEO)について、女性に対する「不適切な言動」があったことを明らかにしました。
前会長は退任理由を「一身上の都合」とだけ説明していましたが、退任時に本当の理由を明かさなかったH社に対して「隠蔽、もみ消しだ」といった批判が続出。前会長への厳罰を求める声も上がっています。
一方、アウトドア用品大手のI社は、9月21日にリリースをした社長辞任のお知らせで、「既婚男性との交際と妊娠」を理由に本人が辞任を申し出たことを明らかにしました。
どちらも内部リークや報道をされる前に何らかの発表、引責をしたわけですが、リリースの出し方に違いがあったということになります。

前薗:企業はメディア側にネガティブな情報をつかまれ、報じられたときに被るダメージの大きさを承知しているので、先手を打つことが多いのは確かです。
ただ、トップが経営責任をしっかりと全うする方が、印象が良くなる場合もあります。
辞任すべきか続投すべきかのバランスを考慮して決断を下すのは、すごく難しいですね。

桑江:不都合な情報は、自ら明らかにする方がリスクを抑えやすいのは間違いありません。
G氏の場合も、追撃ネタの写真を自ら最初に公表して謝罪していれば、かなり状況が変わったのではないかと思います。

前薗:鉄則としては、やはり先手を打って公表するべきだと思います。事象によっては爆弾を抱えたまま時間が過ぎるのを待つという選択肢もあり得ますが、どんな問題を起こしてしまったのかをきちんと説明するのがリスクヘッジの王道です。
社内で公然の秘密となっている事実があれば、社外から追及される可能性も想定した説明内容を考えなければなりません。

値上げラッシュでも忘れてはならない丁寧な説明

桑江:最後は「値上げ」に関する炎上事例を紹介しましょう。
弁当チェーン大手J社が、原油高騰対策の一環で導入した「エネルギーサーチャージ」が物議を醸しました。
Twitterに投稿されたレシートの写真を見ると、「エネルギーサーチャージ」についての記載があることを確認できます。
しかし、投稿者が店員に説明を受けたのは、弁当の代金がいつもと違うことに気付いて問い合わせてからのことだったそうです。
メニューの奥とレジの上には説明書きがあったらしいのですが、投稿者は「購入の段階まで気付かない」と批判しています。
さらに、J社の公式サイトやTwitter公式アカウントでも情報が発信されていなかったため、Twitterユーザーからも「説明が不十分」「分かりづらい」といった指摘が相次ぎました。
原材料価格が高騰する中、値上げ自体は経営判断なので決して悪いわけではありませんが、消費者に分かりやすく提示することが欠かせません。

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