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法改正後も過熱するネットの批判と中傷(デジタル・クライシス白書-2022年11月度-)【第96回ウェビナーレポート】

公開日:2022.12.07 最終更新日:2023.06.20

パネリスト

桑江 令(くわえ りょう)

シエンプレ株式会社 主任コンサルタント 兼 シエンプレ デジタル・クライシス総合研究所 主席研究員。 デジタルクライシス対策の専門家として、NHKのテレビ番組に出演したり、出版社でのコラム、日経新聞やプレジデントへのコメント寄稿も担当。一般社団法人テレコムサービス協会 サービス倫理委員も務める。

パネリスト

前薗 利大(まえぞの としひろ)

シエンプレ デジタル・クライシス総合研究所 研究員。2011年、シエンプレ株式会社に入社。デジタル・クライシス対策の専門家として、日本を代表する大企業の炎上事案の沈静化・リスクマネジメントやブランディングなどの支援を多数担当。また、大手広告代理店との協業で、官公庁のプロジェクトなども担当。企業のWeb戦略策定や実施に携わった経験を活かし、セミナー講師や社内講師なども務める。

SNSの意見に「イラっとした」、経営者の投稿が波紋

桑江:「経営者」に関連する炎上事案です。10月26日、大手焼き肉チェーン店を運営するA社の社長が「スーパーで買った肉を家で焼いた方が安い」というツイートに「イラっとした」と投稿し、賛否両論が出ています。
「こんな肉、スーパーで売っていたら買わない」など、A社の店舗で提供される肉質にも話が及び、炎上状態になりました。
経営者自身が持っているアカウントで世の中の出来事について私見を述べたり、自社のサービスやプロダクトに触れたりするのは珍しくありませんが、内容次第では賛否が分かれるということですね。

前薗:経営者の方がTwitterを使うケースは増えています。ある程度、自由度が高い内容を発信できるのがTwitterのメリットです。
ただ、「私見」と前置きした個人の意見も企業としての公式の発信と捉えられる可能性は十分にあるため、言葉選びには慎重を期す必要があると思います。
投資家の方々もTwitterの炎上リスクを考慮しながら出資先を決めているという話を聞くほどなので、注意してもし過ぎることはないでしょう。
経営者の発信は、どうしても「上から目線」に映ってしまいがち、ということも抑えておくべきポイントだと思いますね。

4年前にカバーした歌唱動画の歌詞に「人種差別」の批判

桑江:次は「差別」をめぐる炎上事案です。シンガーソングライターのB氏が、歌詞に差別用語を含む曲をカバーした2018年公開の歌唱動画が一部で問題視された件についてTwitterで謝罪しました。

前薗:2018年当時と現在を比べると、世の中に批判されるポイントは全然違います。
以前は大丈夫だったからといってそのまま残しておくのは危険なので、自社のコンテンツと最新の炎上トレンドを定期的に照らし合わせて確認するのが無難です。
過去の言動が掘り起こされて炎上し、驚いてしまうことがないように準備しておくべきかと思います。

大学教員から受けた性差別的な発言をSNSで告発

桑江:C大学では、教員から性差別的な発言を受けたという男子学生のSNS投稿が波紋を広げています。
担当教員が女子学生と勘違いして「男子には内緒ですが、女子は基本的には応募=採用です」と、選考で女子学生を優遇しているとも取れる内容が書かれていました。
この事案は男子学生がSNSで告発した内容をインフルエンサーが拡散したことで話題になりましたが、2022年は同様のケースが多々起こっています。

前薗:本来は大学側にクレームを入れるべきでしたが、大学教員より立場が下の学生にとっては言いづらかったのでしょう。
弱い立場の人が外に向けて告発するパターンは、ここ半年間で増えている印象です。社内のコミュニケーションでも十分起こり得ることだと思いますので、危機管理の観点で注意しなければならないテーマだと思います。

双子用ベビーカーのバス乗車拒否に賛否両論

桑江:続いてのテーマは「子育て」です。元女子バレーボール選手で1歳の双子を育てているD氏が双子用ベビーカーを押して路線バスを待っていたところ、乗車拒否に遭ったことをInstagramで告白しました。
「かわいそう」などと擁護されるかと思いきや、「事前連絡をしていれば(乗務員が)対応できたかも」など公共交通機関を利用する際の行動について指摘する声が上がったのが印象的です。

前薗:企業にとってはクレームのような話がインターネット上で晒されてしまうため、しっかりとチェックをしておかなければなりません。
お客さんと直に接したスタッフの一挙手一投足がそのままSNSに上がってしまう可能性があるため、従業員の言動に対する危機啓発も研修やセミナーのコンテンツに組み込んでいく必要があると思います。

SNSで安全性が議論された「おくるみ」が販売休止に

桑江:「子育て」では、新生児が使う「おくるみ」の安全性がSNSで議論になり、商品が販売休止になった事案もありました。
発端となったのは、足の動きを制限する新生児用衣類について「発育性股関節形成不全(先天性股関節脱臼)」のリスクがあると整形外科医が警鐘を鳴らした投稿です。
約6万リツイートと拡散され、整形外科医の投稿にはベビー用品を販売するE社の商品の写真が添付されていました。
E社は多くの懸念の声を踏まえて販売休止を決め、「公の機関を通じて安全性を再確認してから販売を再開する予定です」としています。

前薗:ベビーやペット関連は比較的コミュニティーが形成されていて、その中で「この商品は使わない方がいいらしい」といった情報が出回っています。
こうしたコミュニティーでは、何かしらの問題が顕在化する前にある程度の話題がつくられているかもしれません。自社の商品の評判を把握するときは、背後にどれだけの方が関わっている可能性があるかを踏まえた方がいいと思います。

「また不祥事か」と批判、従業員が同僚に暴行で逮捕

桑江:次は「暴言・暴力」が招いた炎上事案です。引越業大手F社の従業員4人が同僚男性の下着を脱がせるなどした上、けがを負わせたとして逮捕されました。
「反省と挑戦」をスローガンに掲げる同社からは想像し難い卑劣な行為に波紋が広がっています。
ちなみに、F社では2022年1月にも、妊娠中の女性従業員が引っ越し作業中の現場で破水して入院したことなどが週刊誌で報じられました。

前薗:「また不祥事か」と思われてしまうと結構つらいですね。そのまま話題にならなくなればなったで、そういう印象が染み付いたままになってしまいます。「またか」と批判されるような失態を起こさないことが重要です。

2010年から販売している日本語教材にDV描写

桑江:語学テキストなどを出版しているG社は、2010年から販売している日本語能力試験の教材に家庭内暴力(DV)を思わせる描写があったとして公式サイトなどで謝罪しました。ただ、出版時に在籍していた編集部員が全員退職していることから、発行に至った経緯や制作時のチェック体制などは把握できないとしています。

前薗:昔のドラマのシーンを引用していたということなら、まだ救いようがあったかもしれません。初版の段階でいかにリスクを抑えられるかと、どれくらいの頻度で内容を見直せるかが重要でしょう。
もう1つ気になったのは「読者の皆様にご不快な思いをさせてしまい」という、いわゆる「ご不快構文」を使った謝罪文です。
最近は「ご不快」「ご迷惑」「誤解」などよくある謝罪構文への指摘が目立つため、気を付けておいていただきたいポイントかと思います。

社員の性的暴行疑惑、社長の説明内容に批判

桑江:東京都在住の女性は、IT企業のH社の男性社員と食事に行った際、拒否したにも関わらず淫らな行為をされてけがをしたとして、男性社員のTwitterアカウントに向けて事後対応を含めた批判を投稿しました。
これに対し、H社の社長が男性社員の言動を謝罪し、女性との間で示談が成立したと説明。しかし、女性は示談について自分の意思ではなく無効だと訴え、その後もH社の対応に不満を漏らしています。

前薗:社長のコメントを見ても、被害者である女性に対するお詫び、お見舞いの言葉がありませんでした。そういう言葉を伝えた上で発表内容を組み立てていかないと、世論全体を敵に回してしまいかねません。
被害届まで出された行動を「軽率」という言葉で表現したことにも疑問を感じるため、形容詞の使い方にも気を付けた方がいいと思います。

バス運転手と路駐ドライバーの口論動画が拡散

桑江:ハザードランプを点灯させて車を路上に停めていたら、路線バスに何度もクラクションを鳴らされて怖かったという動画がツイートされました。
投稿ではバス会社を名指しし、「あおり運転」のハッシュタグも付けて拡散を促し、1,000件以上のリツイートがありましたが、リプライでは「むしろ車の方が通行に支障を生じさせている」という指摘が相次ぎ、バス乗務員を擁護する声が多かったようです。

前薗:こうしたやり取り自体が晒されやすくなっているのは間違いなく事実ですので、現場での言動には細心の注意を払っていただきたいと思います。
誰が撮って誰が投稿するかは分からず、前後の文脈を考慮せず槍玉に挙げられる可能性もあるため、クレーム時やトラブル時は特に危険です。
企業側もトラブルなどに対応する際は録画、録音しておけば、万一の場合も反論材料を用意できますね。

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