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大手百貨店における元旦広告の炎上と企業の信念について考える

公開日:2019.01.01 最終更新日:2023.06.01

※この記事は雑誌『美楽』2019年1月号の掲載内容を一部修正の上、転載しております。

2019年の元旦、とある新聞広告に注目が集まりました。広告主は大手百貨店A。内容は、顔面に白いクリーム(パイ)をぶつけられている女性の写真に、文章が添えられたものでした。文章には現代社会における女性の生きづらさと、これからの時代は個人が尊重されるべきだという主張が綴られていました。
このセンセーショナルな表現に賛否両論が巻き起こり、ツイッターでは「大手百貨店A」を含むコメントが平時の十倍以上投稿されました。コメントの多くは批判的な内容で、写真に対する嫌悪感や、女性にパイをぶつける側に言及するべきだという不満をあらわにしたものでした。
ネット上にはこの炎上を百貨店Aの失敗として取り上げる記事が散見されますが、仮にも女性を主要顧客とする企業が、炎上を予想せずにこのような広告を公開するでしょうか。

ネットの口コミを利用する広告手法の一つに「炎上マーケティング」というものがあります。企業や個人がブログやSNSで炎上しそうな情報をあえて発信し、大衆の耳目を集めることで認知度を向上させる広告手法です。
炎上マーケティングはブランドイメージを損なうリスクを伴うため、通常は無名な広告主体者が一気に知名度を上げるために行う手法です。そのため、有名企業があえて炎上を仕掛ける必要はありません。しかし、仮に百貨店Aが炎上を覚悟して今回の広告を公開したのであれば、一連の出来事の見方が変わってきます。

例えば、過去に衛生用品の大手メーカーB社がおむつの動画広告を公開して炎上したことがありました。動画の内容は、はじめて子育てする母親が過酷な育児の現場に直面しつつも、わが子の笑顔のような表情をみて母親が涙ぐむというものです。
「女性のみに育児を押し付ける風潮を肯定している」「当時を思い出して吐きそうになる」などの批判が集まりましたが、この炎上を受けたB社は動画の意図を次のように述べました。「動画でリアルな現実を描くことで、理想の子育てと現実との違いに悩む母親たちを応援したいという強い思いを込めた」「父親の育児参加や周囲のサポートが進むよう、多くの方に動画を見ていただきたい。動画を削除する予定はない」
確かにB社のブランドイメージはこの炎上で傷ついたかもしれませんが、それはあくまで短期的なものです。長期的に見れば、宣伝効果、売上への波及効果は炎上の損失を上回る利益を生んだ可能性はあります。

百貨店Aの元旦広告に戻りますが、こちらも炎上を受けて「『自分らしさ』を貫く上での障害を『パイ』に見立て、同質化圧力から脱却して私らしく生きることを応援する意図があった」とコメントしており、広告は現在も(※1)公式ホームページで公開されています。
風評被害という観点からすると、炎上は避けるべきですが、企業の信念を曲げるべきではありません。
大切なのは、炎上を避けることでなく、ある表現を公開した場合に炎上するか否か、また炎上した場合のリスク及び対処法を事前に想定し、事実上の被害を限りなくゼロにすることなのです。

※1 2019年1月22日時点

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