繰り返される情報漏洩、不誠実な謝罪、問題会見 企業側の打つ手はあるのか(デジタル・クライシス白書-2023年12月度-)【第115回ウェビナーレポート】
- 公開日:2024.03.29 最終更新日:2024.06.05


パネリスト
桑江 令(くわえ りょう)
シエンプレ株式会社 主任コンサルタント 兼 一般社団法人デジタル・クライシス総合研究所主席研究員。 デジタル・クライシス対策の専門家として、NHKのテレビ番組に出演したり、出版社でのコラム、日本経済新聞や雑誌『プレジデント』など出版物への寄稿を担当したりしている。一般社団法人テレコムサービス協会 サービス倫理委員も務める。

パネリスト
前薗 利大(まえぞの としひろ)
一般社団法人デジタル・クライシス総合研究所 研究員。2011年、シエンプレ株式会社に入社。デジタル・クライシス対策の専門家として、日本を代表する大企業の炎上事案の沈静化・リスクマネジメントやブランディングなどの支援を多数担当。また、大手広告代理店との協業で、官公庁のプロジェクトなども担当。企業のWeb戦略策定や実施に携わった経験を活かし、セミナー講師や社内講師なども務める。
※当記事は「Twitter」当時の内容となります。
目次
食中毒を起こした焼き菓子店が大炎上
桑江:最初のテーマは「不祥事」です。テレビでも大きく取り上げられましたが、アジア最大級のアートイベントに出店した東京都内の焼き菓子店が、自店が販売した食品が原因とみられる食中毒が発生したとSNSなどで公表し、謝罪しました。
SNSには「異臭がする」「具材が糸を引いている」といった書き込みや、イベントで販売された商品の写真がいくつもアップされています。メディアの取材でもずさんな製造・管理体制が露呈し、それがSNSでさらに拡散した形です。
一方、この店をめぐっては以前から商品を問題視していた人もいました。食中毒発生前のGoogleマップの星評価は1.6と極めて低く、真偽は不明ながら「菓子が岩のように固い」「異臭がする」などの口コミが寄せられています。
このような状況を知らなかったのか、店側がInstagramで公表した謝罪文は絵文字を多用。消費者への対応は店主の負傷が癒えてからにするといった自己中心的な記述もあり、誠実さに欠ける姿勢が見受けられました。
その結果、SNS上は大荒れの事態に発展。誹謗中傷のような批判をかわそうとしたのかどうかは分かりませんが、店側は返金対応の窓口になるはずだったSNSアカウントを突然削除し、店舗も閉業しました。
前薗:店舗の規模に合わせたコンパクトな広報体制が、明らかにオーバーフローを起こしたということですね。何から手をつけたらいいのか分からない状態に陥ってしまったのではないかと思います。
過激な批判を受けたという意味で多少の同情の余地はありますが、あらゆる対応が後手に回ってしまったことは間違いありません。早いうちに弁護士を立てて対応するといった対処が必要だったと思います。
劇団員急死問題の記者会見に批判
桑江:所属する女性団員が急死した歌劇団の調査報告会見も、猛烈な批判に晒されました。
会見に出席した担当者は記者の質問に対し、「加害者も被害者もおりません」と笑みを浮かべて反論。しかし、いじめやパワーハラスメントは確認できなかったと結論付けた調査の過程では、関係者4人がヒアリングを拒否していたことが明らかになりました。
SNSでは調査結果の妥当性を疑問視する声が相次ぎましたが、歌劇団の新理事長予定者は「証拠があるならお見せいただきたい」とコメント。問題解決を図るどころか、火に油を注いでしまいました。
前薗:「そのような事実はなかった」と言い切ってしまった以上、1つでも事実だったことが判明すれば会見そのものの正当性が覆ることになります。
世間は「こういう話を聞けるのではないか」「こういう答えが出るだろう」と期待しているわけです。期待に応える真摯な回答や説明がなければ不満が生まれ、「事実を隠蔽しようとしている」という声に簡単に変化してしまいます。今回の記者会見は、そのような想定が不十分だったと言わざるを得ないでしょう。
またしても起こった従業員による個人情報漏洩
桑江:次は「情報漏洩」です。飲食店事業を手掛けるA社は、関西地区にあるルフ場のレストランに勤務する子会社の従業員が、業務で知り得た利用客の個人情報をSNSに投稿したとして謝罪しました。
本人のアカウントにはこのゴルフ場の利用者名簿とみられる写真が投稿され、そこには有名実業家と参院議員の名前があったようです。こうした事案はメディアでもたびたび取り上げられていますが、未だに起きています。
前薗:そうですね。アルバイト、正社員といった雇用形態を問わず、すべての採用者が適切なリテラシーを身につけているとは限りません。今回のような投稿のリスク防止を常に啓発しなければ、撲滅は難しいと思います。著名人の来店情報などを晒して炎上するケースは、これからも続くのではないでしょうか。
「食品に異物」と連絡、メーカーからの回答が波紋
桑江:続いて「製品やサービスの不具合・対応」です。大手食品メーカーのグループ企業B社が製造した商品を購入したユーザーは、小さな虫のような異物の混入に気付いたといいます。
B社に電話で連絡したユーザーは「現物を送ってほしい」と言われたため、未開封のままの商品を袋に入れて送付したそうです。ところが、B社からの回答は「商品は開封済みで届き、混入していたのは虫ではなく繊維だった」という説明でした。
B社の主張がユーザーの言い分と異なっていたため、SNS上では「この会社は誠実に対応しているのか」という不満の声が上がりました。
前薗:本件の事実関係については、SNS上の情報だけでは判断できません。しかし、顧客とのやり取りが簡単に暴露されてしまう可能性が高まっているということは確かです。企業としては、自社の顧客対応を適宜チェックしなければなりませんね。
また、従来の顧客対応はコールセンターのオペレ―ターなどとの1対1でしたが、近年ではSNS上でやり取りを明かされてしまえば、投稿者に味方するユーザーが続々と現れます。
そのため、顧客対応の際は多数の相手がいるということを前提にしなければ、今回の件のようなリスクが生まれると思います。
生きた虫の混入は嘘だった!? 投稿者に「正義の裁き」
桑江:大手ファストフードチェーンを運営するC社も、商品に生きた虫が混入していたというXの投稿が話題になりました。投稿者は紙ナプキンに包まれた虫の写真を公開し、C社に連絡を取ったと報告。翌日、C社から連絡があったとし、商品代金分の無料券を渡すなどの対応も伝えられたことを明かしました。
ところが、投稿者に対してSNS上では「油で揚げる商品に生きた虫が入るわけがない」「生きた虫という割に動画を撮っていないということは100%嘘だ」といった批判が殺到。本件の真相は今も定かではありませんが、嘘の出来事とみなされれば投稿者も「正義の裁き」を受けて攻撃されてしまうということです。
前薗:企業が念頭に置かなければならないのは、SNS上では商品・サービスに対する不満の声がたやすく書き込まれるということです。自社に関係する投稿のモニタリングを強化する、あるいは「異物混入」など大きな騒動に発展しかねないキーワードを含んだクレームを、専用のアラートで受け取れるようにするといった対処が必要かと思います。
時代錯誤と取れる広告コピーが物議
桑江:続いては「不適切発言・表現」です。「歳を取るのは怖くない。それは娘が介護士だから」と記載された電車内広告がSNS上で大きく拡散され、物議を醸しています。
広告主は介護医療関係に特化した転職サービス企業です。広告を見たSNSユーザーからは「娘には大変な思いをさせたくないと思うのが普通」など否定的な意見が続出しました。
前薗:こうした事態を防げるかどうかは、広告のキャッチコピーを考えた後に社内でチェックする体制をつくるしかありません。その上で、「これはおかしい」と感じた人が「NO」と言える環境が整っているかどうかに懸かっていると思います。
誰にとっても違和感がないと言い切れるキャッチコピーをつくることは困難です。企業としては、不適切なコピーが表に出ることを防ぐ仕組みづくりに心血を注ぐべきでしょう。
湯たんぽにお茶用のお湯、回転寿司店での迷惑行為が拡散
桑江:最後は「その他」です。回転寿司店を訪れた客が湯たんぽのような容器を持ち込み、お茶用の蛇口からお湯を注ぐ動画がX(旧Twitter)で拡散される騒ぎになりました。
今は他人の不適切な言動を誰もが撮影できる時代です。知らないうちにSNS上に晒されてしまうことが十分起こり得ます。
前薗:このような炎上パターンは、近年の大きな潮流になりつつありますね。「自分はSNSを使っていないから大丈夫」と考えたとしても、もはや通用しないということを証明した事案かと思います。
極端なことを言えば、信号無視などの軽はずみな行動も第三者に撮られて拡散されてしまうかもしれません。
桑江:実際に、SNS上でも「カフェにいた〇〇会社の社員が、お客さんの名前を出しながら大声でしゃべっていた」「ノートパソコンに覗き見防止フィルターをかけていないので画面が丸見え。〇〇会社さん大丈夫?」という形で取り上げられています。
社名入りの制服や社用車などを利用している企業は特に、リアルな言動に気を付けなければならないという意識を、一人ひとりの社員にしっかり持たせる手立てを考える必要があるでしょう。